店舗を貸してくれる不動産オーナーが増えてきました

【市来】カフェだけ見ればそうかもしれません。ただ、僕らが店を出したことをきっかけに、この通りで新しく店をやる人に店舗を貸してくれる不動産オーナーが増えてきました。

【田原】そのあとは?

【市来】15年から「MARUYA」という素泊まりの宿を始めました。素泊まりにしたのは、建物の中で完結させるのではなく、外でご飯を食べたり、温泉に入ってもらいたかったから。熱海の町全体が宿というコンセプトです。こちらは順調で、19年にもう一軒オープンしました。いま年間で5000人くらいの方にお泊まりいただいています。

【田原】今のメーンは宿泊業ですか?

【市来】会社の収入のうち、宿泊と飲食が6割。不動産関係が2割で、残りの2割は創業支援や企業研修です。

【田原】会社は軌道に乗った。肝心の町おこしのほうはどうですか?

【市来】僕らがやってきた成果が数字として表れ始めたのは1年前ぐらいから。熱海銀座の地価が上がったり、人口や雇用が増え始めました。熱海全体を見ると高齢者の割合が多いので人口はまだ減っているのですが、転出を転入が上回って、人口減のスピードが鈍くなっています。

【田原】観光のほうはどうですか?

【市来】観光客数の底は11年の246万人で、12年以降は反転。いま307万人にまで回復しました。サービスの悪い旅館やホテルが淘汰されて、きちんと改善を続けてきたところだけが残ったこと。もう1つ、旅館やホテルが多様化して、お手頃な価格で泊まれるところが増えて、若い人が訪れるようになったことが大きい。町自体も、00年代後半から新しい店ができたり、世代交代が起きていました。そこに僕たちの「オンたま」が重なって、リタイア後に熱海に別荘を持ち、移住してきた人たちが新しいお客さんになり、少しずついい流れができてきたのかなと。

【田原】いま日本の地方はみんな町おこしに取り組んでいます。うまくいく秘訣は何ですか?

【市来】行政が仕掛けると難しいですよね。民間主導で、行政とつながってフォローする形がうまくいきやすい。あと、民間主導でも、地域で閉じないことが大切。地元のコミュニティだけでやると新しいことが起きにくいので、外部の人を入れたり、外の視点を持っている地元の方が関わったほうがいいと思います。

【田原】熱海では、外の視点を持った1人が市来さんだったわけだ。最後に聞きたい。これから熱海をどうしていきますか?

【市来】いま一部エリアは再生しましたが、町全体ではまだまだ。取り組みを熱海市全体に広げていくと同時に、これからは長期的な視野も必要かなと考えています。たとえば景観。文献によると、100年前の熱海はとてもきれいな町だったそうです。いまはまだぐちゃぐちゃなので、50 年、100年かけて美しい景観をつくる取り組みをやってみたいですね。将来はきっとクルマ社会ではなくなっているので、クルマを気にせず歩けるリゾートにするのが方向の1つです。

市来さんへのメッセージ:地方創生のトップランナーとして走り抜けろ!

(構成=村上 敬 撮影=宇佐美雅浩)
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