【田原】それがなぜ量子コンピュータに?

タイムマシンをつくって未来を見たかった

【山城】最初はタイムマシンをつくって未来を見たかったんですよね。でも宇宙の研究をしているうちにできないとわかった。未来が見られないなら、自分で未来をつくろうと発想を転換。機械学習や人工知能よりもっと先で、でも自分が生きているうちに実現しそうなテクノロジーがいいと思って、量子コンピュータの研究を始めました。

【田原】それがいつ頃ですか?

【山城】大学4年のときなので、15年頃ですね。

【田原】具体的にはいま何を開発しているのですか?

【山城】ハードウェアではなく、アプリケーションの開発をしています。80年代、日本は国家プロジェクトとして第5世代コンピュータの開発を始めましたが、結局は頓挫した。原因は、つくった後に産業にどう応用するかという部分が足りなかったから。量子コンピュータ業界はそのことを学ばないといけません。僕自身、研究者として全然わからない現象を制御するハードウェア開発にすごく惹かれますが、同時にその技術ができた後に社会にどう役立てるのかを考えないといけない。僕はそちらにフォーカスしようかなと。

【田原】実際、量子コンピュータができると、何ができるようになるんですか?

【山城】いくつか分けて話さないといけません。僕がやっている量子アニーリングは最適化計算が得意です。たとえば、物流の配送計画。どの経路が一番コストが安いのかという問題を解けます。量子コンピュータで有名なのは、ショアのアルゴリズム、つまり暗号破壊です。ただ、暗号破壊はすごく遠い未来。期待できるのは創薬シミュレーションですね。いまスーパーコンピュータでやっている創薬シミュレーションは近似法で、厳密解ではありません。量子コンピュータなら本物の創薬と同じものをシミュレーションできます。

【田原】グーグルが19年10月、量子コンピュータを発表しましたね。あれでシミュレーションできますか?

【山城】まだできないです。

【田原】実現するのはどれくらい先?

【山城】10年くらいじゃないでしょうか。僕は業界の中だと楽観主義者。30年は必要と悲観的な見方をしている研究者もいます。

【田原】10年後、楽しみですね。

【山城】量子技術は社会のバックボーンになっていて、僕たちが気づかないところで恩恵を受けている世界になると思います。そのバックボーンを支えられるように研究を続けていきたいですね。

山城さんへのメッセージ:日本発で世界で勝てるソフトウェアをつくれ!

(構成=村上 敬 撮影=枦木 功)
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