1番有名なのは、量子重ね合わせ状態

【山城】1番有名なのは、量子重ね合わせ状態ですね。「シュレーディンガーの猫」という話があります。僕らの世界では、猫って生きているか死んでいるのかのどちらか。だけど、すごく冷たい量子の世界だと、猫は生きてもいるし死んでもいます。

山城 悠●1994年、沖縄県生まれ。沖縄県立具志川高校、琉球大学卒。東京工業大学理学院物理学系西森研究室で研究を行い、2018年11月にJijを創業。量子アニーリングマシン向けソフトウェア開発、コンサルティング事業を行っている。

【田原】どういうこと? 全然わからない。

【山城】僕たちは猫は生きてるか死んでいるかのどちらかで、必ず確定していると思っています。しかし、本当はそうではなくて、観測されるまでは生きてもいるし死んでもいるという状態が許されています。

【田原】たとえば山城さんはいま生きてるでしょ。本当は山城さん、死んでいるともいえるってこと?

【山城】いや、田原さんはいま僕のことを見ていますよね。見ているのでダメです。重ね合わせ状態は、観測していない場合なので。

【田原】見えてない猫の生死がわからないなんて、あたりまえじゃない?

【山城】そういう意味ではないんです。もともと生きてもいるし死んでもいるという状態が許されていて、観測されると、どちらかになると。

【田原】さっぱりわからない。なんで許されているの?

【山城】自然がそうなっているとしかいいようがないです。えーと、量子コンピュータで説明すると……。

【田原】待った。量子がわからないのに量子コンピュータなんてわかるわけない! 量子、もう1度説明してください。そもそも量子が登場したのはいつなんですか?

【山城】産業革命のころです。当時は鉄を溶かして機械をつくっていました。鉄を熱してうまく変形させるには、鉄の温度を測る必要があります。ただ、当時は高温を測る温度計がなく、職人が鉄の色を見て温度を推定していました。いわば勘と経験の世界です。当てずっぽうではなく正確に温度を知りたければ、鉄の色と温度を結びつける理論、数式が必要。当時の物理学ではその数式をつくれなかった。ところが、マックス・プランクという物理学者がプランク定数という概念を取り入れたところ、色と温度に対応する数式ができました。その理論を説明するために導入されたのが、量子力学の考え方でした。

【田原】重ね合わせがよくわからないんだよね。どういうことだろう。

【山城】猫ではなく、電気回路で説明してみましょうか。丸い電気回路をつくって電気を流せば、僕たちは電気が右に流れているか左に流れているかを計測することができます。ただ、小さくて絶対零度に近い温度の回路をつくって電気を流すと、右にも流れているし左にも流れているという現象をつくることができる。

【田原】なんで小さいと相反することが同時に起きるんですか?

【山城】実は量子は、右に回っている可能性が何%、左に回っている可能性が何%というように確率的な振る舞いをしています。大きくなると、この確率がどちらかに偏る。逆にいうと、小さいときは偏りが小さく同時に存在できるんです。