札幌市東区にある北洋建設株式会社。従業員60人ほどの小さな会社だが、その3分の1は出所者だという。これまで500人以上の前科者らを雇用し、その数は法務省から日本一と言われている。なぜ法を犯した者を積極的に雇うのか小澤輝真社長に聞いた──。

一人当たり40万円負担、土地を売って捻出

創業して46年。2代目小澤社長は今春で社長就任5年目となる。これからというときだが、残された時間は3年。脊髄小脳変性症という難病を患っており、余命宣告されているからだ。小脳が委縮して体が徐々に動かなくなる病気で、うまく話せず歩けない。そんな状況でも、小澤社長は人を思う。

小澤社長「人手不足の悩みは当社にない」。

「いまも刑務所で待っている人が全国にいっぱいいるんですよ。そのためにやるべきことをやるのみです」

受刑者を雇うのは父である先代の社長から続く方針だ。小さいころからその環境を見てきた小澤社長にとって、当たり前のことだった。

小澤さんのもとには、毎日5~6通の手紙が刑務所から届く。すべてに目を通し、就職を希望していれば、面接のために全国の刑務所を回る。就職が決まれば、今度は出所から札幌までの交通費や生活用品一式を用意。そのほか、業務に関わる各種資格取得費用なども合わせると、平均して一人当たり約40万円を負担することになる。その費用はもともと持っていた土地や不動産を売却して捻出している。

「前科があるせいで働けなくて、働けないから再犯してしまうという事情が元受刑者にはあります。腹が減ってどうしようもなくてパンを盗んでしまうくらい本当に困っており、助けを求めているのです。ただ、こちらにも彼らを雇うメリットはあり、人手不足が叫ばれる昨今でも、当社はこれまで人手に悩んだことは1度もないんです」

だが、世間一般からすれば元受刑者は近づきがたい。

「どんな人かなんて雇ってみないとわからないですよ。暴走族の元総長は、仕事をする中で『初めて褒められた』と感動していました。それまで褒められたことがなかったんですね。その後、ものすごく伸びました。少年院に3回も入った人も立派に更生し、いまでは独立して経営者として頑張っています。元受刑者だってできる人はできます」