徒手空拳。今は福岡市内に構えた事務所で労働運動に没頭している。

幸い、籍を入れた年上のパートナーの収入があるが、貯金はない。在学中に借りた600万円近い奨学金の返済はこれからだ。年金保険料もずっと払っていない。「絶望的ですよ」とニガ笑いする。

ワーキングプアが注目されるにつれ、小野さんのもとにも様々なメディアが取材にきた。取材対応も活動のひとつだが、報道には違和感を覚えるという。

「メディアは離れたところから、ワーキングプアを『悲惨だ』『犠牲者だ』と一面的にしかとり上げない。僕らの活動は賃上げだけが目的じゃないのに」

小野さんは「新自由主義」のひずみによって著しい流動化の生じた労働市場のあり方を問題視している。「わかりづらいかもしれないが」と前置きしたうえで、小野さんは力を込めて言う。

「今の社会制度だと、端的に結果を出したいと思えば選挙に投票にいけばいい。しかしその受け身のプロセスでは何も変わらない。そのために僕たちはデモや集会、労働争議といった具体的な行動を起こしています。自分自身が直接、政治的にかかわることが、フリーターや格差の問題の解決につながるのだと思う」

不安定な雇用と低収入――。貧困の連鎖はますます深刻度を増している。この生きづらい社会を変えるにはどうすればいいか。“底流”からの叫びへの答えはあるのか。闇は深い。