幼い子どもを連れてバーやスナックに行くか?

バーやスナックなどを中心に約2000軒が加盟している東京都社交飲食業生活衛生同業組合の塚口智理事長は「幼い子どもを連れてバーやスナックに行きますか」と話す。

店頭に禁煙・分煙などを示すステッカーを東京都が配布している。

「禁煙の徹底で客足が遠のけば、黙認する店も出てくるはずです。実際に指導するのは保健所の管轄になるそうですが、都内に約10万軒ある飲食店をはたしてどれほど公平に指導できるのでしょうか。また『店内は禁煙だから』と路上での喫煙やポイ捨ても増えてしまうでしょう」

「我々はこれまで都と一緒に、店の喫煙環境が分かるステッカー表示の協力店舗を増やしてきました。コツコツと進めてきたのですが、小池知事になって突然都の姿勢が変わったものですから、大混乱です」

小池都知事の罰則付きの受動喫煙防止条例制定に対しては、昨年12月、都下の13の特別区と10市の議会も意見書を提出している(文京区は要望書)。2月の都議会定例会への法案提出を牽制する狙いがあったようだ。

このうち千代田区議会の意見書は、「受動喫煙防止対策は一層推進していくべき」としたうえで、「千代田区内の児童遊園等は順次禁煙化していく計画であり、飲食店やオフィスビル内でも禁煙化が進んでいる現在において、喫煙できる場所がないという課題が顕在化しています。受動喫煙防止対策は様々な分野の経済活動や都民の暮らしに広く影響を及ぼすものであり、多くの関係者の理解と協力があって、はじめて実効性が担保され、効果的な対策となるものと考えます」として、各区との協議を重ねることを求めている。

結果として、小池都知事は2月の都議会定例会への条例提出を先送りしている。

非喫煙者は意に添わぬたばこの煙を吸わされていると主張し、喫煙者は吸う場所が厳しく限定されていることに不満を募らせる。互いに被害者意識を強く抱いているから、感情的な対立は憎悪に近くなる。

国のたばこによる税収は約2兆円。一方、厚労省は「日本では年間1万5000人が受動喫煙で死亡している」と報告している。

本来、問われるべきは、たばこは健康によくないとしながら、たばこの販売を許可してニコチン依存症の患者を増やし、税収を得ている国や自治体のダブルスタンダードの姿勢だろう。国の方針としてたばこはいかにあるべきかを議論しないまま、いたずらに喫煙者と非喫煙者間の問題に転嫁したことで、お互いが憎悪の感情をぶつけ合うことになってしまっている。

前出の宇都野さんは、「国も都もたばこを販売しておきながら、屋外でも屋内でもほとんどの場所で吸ってはいけないとするのは、単なる弱い者いじめでしかない」と話していた。

東京都は4月から「都庁内全面禁煙」を進めていくという。2月18日の記者会見で小池知事は「五輪へ向け『隗(かい)より始めよ』です」と胸を張った。だが、率先して「東京都はたばこの販売を禁止します」くらいのことを宣言したほうが、よほどスッキリするはずだ。非喫煙者と喫煙者がいがみ合うような構図に問題を矮小化しても何の解決にもならない。

(写真=iStock.com)
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