一般的に夫が不倫した場合、夫と不倫相手の女性が、妻に不法行為をしたことになります。そのため、妻が夫と相手の女性に損害賠償を求めることはできますが、相手の女性が不倫仲だった男に損害賠償を求めることはできません。

相手の女性が妻に賠償金を支払って決着

ただし、男性が既婚者だと不倫相手の女性が知らなかったとすれば話は違います。この男性は既婚者であることを女性に隠していました。裁判では「既婚者であると知っていたら関係をもつことはなかった」と訴えてきたのです。

最終的にこの一件は、妻をも巻き込む大騒動となり、相手の女性が妻に賠償金を支払って決着しました。相手の女性が支払うべき賠償金の一部は男性が負担しました。

相手の女性は裁判を起こす前に録音を取ったり念書を用意したりしていて、もしかしたら、ある時期から男性をハメようとしていたのかもしれません。だが、それを証明する術が男性にはありませんでした。男性は、不倫を妻に知られないために、相手の女性からの手紙などの物品を処分するだけでなく、LINEのやりとりをすべて消去していたのです。もしも、履歴がすべて残っていれば違った結果になったかもしれません。

不倫のスタートから、地獄の道ははじまっている

一方、職場不倫で相手の恨みを買った場合にはセクハラをでっち上げられることもあります。不倫は個人の問題であるため、会社も積極的には関与しない傾向にある。でもセクハラとなれば労働トラブルの1種として、会社が訴えられてしまうため、単なる個人の問題にとどまらなくなります。

この場合は不倫相手と交わした会話の音声データ、手紙、そしてLINE履歴などがあれば、合意のうえで交際をしていた証拠になる。それをもとに「セクハラではない」と、無実を証明することができます。しかし、仮にそれらの証拠を残していれば、配偶者に不倫がバレて訴えられるリスクが高まることになります。

不倫のスタートから、地獄の道はすでにはじまっているのです。

刈谷龍太
グラディアトル法律事務所 代表弁護士
1983年、千葉県生まれ。明治大学法学部卒業。中央大学法科大学院修了。得意分野はセクハラ、パワハラ、不当解雇などの労働問題。
 
(構成=向山 勇 写真=PIXTA)
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