60ドル前後が新たな均衡水準に

以上をまとめると、OPECが積極的な減産姿勢を維持するなかでも、原油価格に対する上昇圧力は小幅にとどまる公算が大きい。また、米国のシェールオイルの増産ペースが一段と加速することはなく、原油価格に対する下押し圧力も限られる。結果として、世界の原油需給バランスは概ね均衡状態で推移し、先行き、原油価格が極端に上昇あるいは下落する可能性は小さいと予想される(図表4)。

では、原油価格はどの程度の水準に落ち着いていくのだろうか。

近年、米国のシェールオイル生産が急速に拡大するなかで、これまでOPECが担ってきた原油市場のスイング・プロデューサー(需給調整役)が、米国のシェールオイル生産企業に取って代わられるとの見方が広がった。しかし、足許のOPECの減産による効果を踏まえると、やはりOPECがスイング・プロデューサーとして果たす役割は大きい。

ただし、市場原理に基づいて生産量を機動的に増減させる新たなプレイヤーが原油市場に加わったことも事実である。このため、OPECは米国のシェールオイル生産が増え過ぎず、かつ、減り過ぎもしない水準に原油価格を安定させることを目指すのではないか。前述の通り、これまでの原油価格の動きとシェールオイル生産企業を取り巻く環境を踏まえると、この水準は60ドル前後と推測される。

60ドル前後は2014年夏場にかけて約3年半続いた100ドル前後と比べると大きく水準は切り下がるものの、原油価格の過度な下振れとその長期化を回避したいOPECにとっても辛うじて許容できる範囲といえる。結果として、原油市場では、60ドル前後を新たな均衡水準とみる動きが徐々に強まってくると予想される。

ここ数年、世界経済は原油価格の大幅な変動に振り回されてきた。原油価格の大幅な下落は産油国経済にとって痛手となる一方、石油消費国の景気にはプラスとなる。また、当然ながら原油価格の大幅な上昇は、その逆方向に作用する。

産油国・石油消費国を含めた世界経済のバランスのとれた発展には、原油価格の安定が重要となる。これからも原油市場のスイング・プロデューサーとしての役割を果たすことになるであろうOPECと、新たに同様の役割を果たすこととなった米国のシェールオイル生産企業の力が均衡するかたちで原油価格が安定することは、世界経済にとっても好ましい状況といえるだろう。

藤山光雄(ふじやま・みつお)
日本総合研究所副主任研究員。1979年、奈良県生まれ。2001年3月神戸大学経営学部卒業、同年4月日本総合研究所入社。調査部にて、金融・資本市場、国内マクロ経済の調査・分析に従事後、2010年4月~11年3月まで(社)日本経済研究センターに出向。2011年4月に帰任し、調査部マクロ経済研究センター(米欧経済)。研究・専門分野は内外マクロ経済。注力テーマは米欧経済、エネルギー市場。
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