職業寿命の60年化で戦略と計画が必要に

「自分のキャリアについて考えなさい」といわれたら、たぶん50代の人は「それは会社の人事部の役目じゃないか」と反発するだろう。40代にもそういう人が多いはずだ。

しかし、20代や30代は違う。命じられなくても、自分のキャリアについて考えている人が大半を占める。なぜ若い世代ほどキャリア志向が身についているのか。その理由として次の4つの点を指摘できる。

まず、転職が当たり前になったことである。会社を変わるという行為が、自分なりのキャリアをつくる手段として社会的に認められるようになったのだ。

次に働き方の多様化。高度成長期は1度会社に入ると、何歳で課長、何歳で部長、最後は定年退職という具合に、確固たるレールが敷かれていた。ところが、現在ではポスト不足で誰もが管理職になれるわけではない。正社員、非正社員の区別だけでなく、正社員のなかにも、地域固定、短時間勤務型などのバリエーションが生まれている。こうした働き方の選択とキャリアの問題はきわめて密接な関係がある。

さらに、成果主義の浸透によって、30代前半という比較的早い段階で次世代リーダーの候補が選抜され始めたことも見逃せない。そこで選抜に洩れてしまった人は、今後のキャリアを真剣に考えざるをえなくなる。

最後に、寿命の長期化だ。高齢社会への移行によって年金があてにできなくなり、今のミドルから下の世代は、健康である限り働かなければ、生活を維持できない。多くの日本人は仕事さえあれば、80歳くらいまでは働けるようになっているから、大学を卒業して22歳から働き始めたとして約60年の“職業寿命”があることになる。その60年を有意義なものにしたければ、それなりの戦略と計画が必要となる。それが、まさにキャリアデザインなのだ。

このような長い職業寿命のなかにおいて、キャリアデザインを1度決めたとしても、それを墨守する必要はない。むしろ必要に応じて、その都度見直していかねばならない。特に若いうちはやりたいことが頻繁に変化するものだ。「私にはこの仕事しかない」と決めつけて視界を自ら狭くしてしまうのではなく、オープンマインドでやるべきだ。キャリアデザインに関しては、優柔不断なくらいがちょうどいいのである。