3.重要な会議は午前中に開催する。筆者が社外取締役を務めている小野薬品工業株式会社の取締役会は、午前中に開催されるだけでなく、毎月会議の開始時刻は変化する。

開始時刻は流動的であるが、終了時刻の正午は厳守される。開始時刻が流動的なのは、会議で取り上げられる審議事項と報告事項の数と説明に、必要な時間が毎回異なるからである。討議すべきことが多いと午前9時に、定例の報告が大部分を占め審議事項が少ない時には午前10時半にスタートといった具合である。各案件に必要となる時間は事前に十分に検討されているので、会議終了時刻が正午を超えることはない。

また、紙媒体の資料は最小限に抑えられ、説明資料の大部分は、参加者それぞれの正面に置かれたモニターに映し出される。社外取締役も社外監査役も製薬の専門家ではない。「作用機序」「プロトコル」(臨床実験の実施計画書)と言った専門用語が多数会議では飛び交うが、初出時にはもちろんのこと、時に触れて簡潔な説明がなされるので、知らないうちに専門用語にも精通できるような工夫がある。

会議が終われば、直ちにランチタイムとなる。取締役会メンバーと少数の事務局メンバーが参加するランチミーティングの話題は多様である。社外取締役・監査役は、国際情勢やAI/ロボットに詳しい多言語を操るシンクタンクの主任研究員、経営学者、公認会計士、弁護士で構成されているが、それぞれの専門領域の見地から意見を述べる。社外役員と社内役員との意見交換が自由闊達に行われる。ランチ会場は、オープン・イノベーションの場となっているのである。

決定を先送りしないための常石造船の工夫

4.審議事項はすべて、会議当日中に審議を終え、意思決定を行う。そのためには、審議に必要な過不足のない資料が準備されなければならない。とは言っても、会議中に確認したい情報も出てくるだろう。

「逸品」ものつくり経営塾(https://www.facebook.com/ippinjyuku/)のメンバーである常石造船株式会社では、情報不足のために審議が次回に繰り越されることはない。常石造船の会議で驚くことは、全社員の情報リテラシーが極めて高いことである。その能力が発揮できるイントラネットも整備されている。

会議中に参加者が要求した資料が必要だと認識され、その必要な資料が準備されていない時、往々にして、審議は次回に繰り越される。このような事態は、常石造船では生じない。要求された資料を、名乗りをあげた者が、社内データをその場で加工・計算して必要な資料が出来上がる。

会議は、新たに追加された資料も参考にしながら決定が行われる。資料作成者は、資料作成に必要な時間を推定し、それを会議議長に伝える。それが15分であれば、この時間で検討し方針決定ができる他の議題を取り上げる。その審議が終わる頃には、資料は完成している。

グループウエアを整備するだけでは、会議の生産性は向上しない。ちょっとした工夫で、会議は設定した時間内で終了し、審議すべき事項はすべて検討が完了し決定を導くことができる。このように会議を運営できれば、ホワイトカラーの生産性は驚くほど改善されるだろう。

会議は黙っていると、細胞分裂のようにどんどん増加してしまう。実際には情報共有ですらなく、何か問題が生じた時の全員責任体制=裏を返せば無責任体制を作り上げておくためと感じられることすらある、それを防ぐためには、断捨離ルールを適用すればよい。具体的には、「新たな会議体を設ける場合には、既存の会議を2つ廃止する」のである。

加登 豊(かと・ゆたか)
同志社大学大学院ビジネス研究科教授(神戸大学名誉教授、博士(経営学))
1953年8月兵庫県生まれ、78年神戸大学大学院経営学研究科博士課程前期課程修了(経営学修士)、99年神戸大学大学院経営学研究科教授、2008年同大学院経営学研究科研究科長(経営学部長)を経て12年から現職。専門は管理会計、コストマネジメント、管理システム。ノースカロライナ大学、コロラド大学、オックスフォード大学など海外の多くの大学にて客員研究員として研究に従事。
(写真=iStock.com)
【関連記事】
三流企業の"会議"が何も生み出さない理由
なぜピクサーの会議には想像力があるのか
なぜ、カルビーは「会議不要、資料不要」なのか
"上司の質"で組織の生産性に倍の差がつく
なぜあの国の労働者は“5時で退社”できるのか