しかし「JINS PC」のブームも一段落。また業績が低迷し、戦略を見直す必要がありました。この、新しい戦略を生み出す際に必要なものがビジョン、つまり「根っこ」です。日本でビジョンというと数値目標をイメージされがちですが、本来の意味は「理念」みたいなものです。JINSは14年に「MagnifyLife(人々の人生を拡大し豊かにする)」というビジョンを掲げ、グローバル展開を加速しました。同時に、会社全体の在り方を見直すことにしました。接客も商品のデザインも変え、従業員の給料も引き上げました。「Magnify Life」を実現するには、人に投資し人を育てることが欠かせないと考えたからです。

ビジョンに支えられて戦略が生まれ、戦略から戦術が導かれ、商品やサービスを実らせる。この順で成長していくのが理想的だと考えています。しかし現実は、商品やサービスだけ思いついて、とりあえず起業して、壁にぶつかったら、足りない部分を補う、というのが多いパターンだと思いますけどね(笑)。私も起業した頃はそうでした。

ただ、起業してから赤字になるのは本当に苦しいことですから、これから起業する人には、会社が育っていくためにビジョンは絶対に欠かせないものだということを覚えておいてほしいです。根っこがしっかりしていないのに果実を一杯に実らせたら、少し風が吹いただけで木は倒れてしまう。成功したのにその後続かず、倒産してしまう会社というのは、そういうケースが多いのですよ。

ジンズ代表取締役社長●田中 仁(たなか・ひとし)
1963年、群馬県生まれ。88年ジェイアイエヌ(現ジンズ)を設立。2001年アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始。06年大証ヘラクレス(現ジャスダック)に上場。11年には「Ernst&Young ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011」モナコ世界大会に日本代表として出場。13年東証一部に上場。17年4月ジンズへ社名変更。
 
(構成=東 雄介 撮影=富貴塚悠太)
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