海外生活は「視野が広がる」

【臼井】海外経験が出世に影響するかは、人によるでしょう。もし、有名大学を卒業して語学に堪能でも、コミュニケーションが苦手な人は、意識改革をしない限り、海外に行けば、突然、社交的になるとも思えません。ただし海外経験は、その後のビジネス人生に生きます。人種も違えば、学んできた教育、生活文化、食事内容も異なる人たちと一緒にビジネスを行うので、価値観も変わり、視野も広がるのです。

ブラザー工業の小池利和社長(左)とコメダ珈琲店の臼井興胤社長(右)

【小池】私個人としては米国に渡ってから、販売、マーケティング、商品企画、財務、IT、ロジスティクス、顧客サービスなどさまざまな業務に関わり、多様な経験を積むことができました。そのおかげで現在の地位に就いたので、チャンスを与えてくれた米国には感謝しています。ただ、私はマネジメントができて、リーダーシップが発揮できれば、ビジネスは何でもよかったのです。

【臼井】そこは同感です。

【小池】小池毛織という会社を経営する一族の家に生まれ、一時は200人ほど従業員がいましたが、繊維の街・一宮の紡績業の羽振りがよかったのは子ども時代まで。しかも父親は6人兄弟の末っ子でしたので、その息子が入社したところで中核にはなれそうもない。先行きも厳しい業種でしたので、最初から他の進路を考えていました。大学の同級生は銀行や生保やマスメディアなどに進みましたが、1人だけ愛知県に本社があるブラザー1社のみを受けたのです。もともと海外志望はなく、出世への近道と考えて渡米しました。

【臼井】なるほど……。私は自分の歩んだ道を振り返ると、好奇心が旺盛な半面、少し飽きっぽいのだと思います。銀行から当時勢いのあったゲーム業界のセガに転職後、スポーツ用品メーカーのナイキに移ったのは米国文化に対する憧れもあった。当時は未知の世界だった外食産業のマクドナルドに行ったのもそうです。コメダの社長となって4年たちましたが、どんな会社でも、マネジメントとリーダーシップという役割は共通です。

社内公用語を「英語」にする気はない

――ブラザーはこれだけグローバル化が進むと、「社内公用語を英語に」という声も出てきそうな気がします。

【小池】それはまったく考えていません。業務で外国語が欠かせない人が、それぞれの自主性で習得すればよいのです。たとえば子会社となった英国ドミノ社の業務に関わる人は英語が、グローバルの販売業務に関わる人は現地公用語での会話が必要です。アジアの現地工場との交渉も多い製造・開発部門の人は、現地工場が多い中国語や英語で会話をします。それ以外の国内業務の人にまで、会社が一斉に英語を強要する気はありません。