700人以上の雇用を生んでいる

【田原】どうして革なんですか。

【田口】何がバングラデシュという国にとっていい事業なのかと考えていたときに、イードというイスラム教のお祭りがあるのを知りました。イードは牛を神様に捧げる犠牲祭で、肉は食べますが、その皮が大量に出る。それを日本の革縫製の技術で製品化して輸出すれば、自国の資源を活かした高付加価値の大きな産業がつくれるんじゃないかと。

田原総一朗●1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。本連載を収録した『起業家のように考える。』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】なるほど。工場は田口さんが仕切っているのですか。

【田口】バングラデシュ人です。日本の革職人さんにお願いし、革のすき方からミシンがけまで教えてもらいました。帰国後、彼とその友人2人で立ち上げたこの工場は、いまでは700人以上の雇用を生んでいます。

【田原】え、そんなにたくさん雇ってるの! 売れているんですね。

【田口】日本にビジネスレザーファクトリーというブランドで8つ直営店があります。

【田原】いまソーシャルビジネスをいくつやっていますか?

【田口】10事業です。ぜんぶで売り上げは33億円ほど。これ以外に、いまも5事業ほど立ち上げ準備中です。

【田原】社会の課題を解決するなら、1つの事業に集中してインパクトを出すやり方もあります。どうしていくつもやるんですか。

【田口】1つに絞ると変化に弱くなります。僕らの理想はニッチトップを群として持つこと。1つの事業で10億円程度の売り上げが適正。社会課題に深く刺さった、ユニークで小さな事業体を複数持つほうが、突然の環境変化にも耐えられます。

【田原】失敗したものもあるの?

【田口】1つ、子ども服ブランドをつくりましたが、まったく利益が出ませんでした。サイズの幅広さ、激しい値引き競争といった子ども服業界の常識を知らずに勢いでたくさん出店して失敗しました。

【田原】逆にいうと、ほかの事業はみんな成功したの? すごい勝率だ。

【田口】事業は本来、一定の能力がある人が一生懸命やればうまくいきます。なのに、なぜ失敗するかというと、途中で情熱が尽きるから。ちょっと難しいと、自分がやりたいのはやっぱりこれじゃない、とすぐあきらめて、ちょっと上手くいくと飽きがきて「もういいか」となる。失敗というよりも、やめちゃうんです。逆にいえば、飽きのこないもの、つまり自分が心からやりたい事業を選んでやり続ければ、まず失敗しません。先ほど失敗例にあげた子ども服の事業も、いまはベビー服のギフトブランドに形を変えて継続しています。途中で投げ出さずに修正しながら続けていけば、必ず成功します。