【三谷】たとえば、AIに経営責任はとれません。なぜなら企業は一つ一つ異なる固有の存在だからです。AIに統計的に経営を任せることは可能でしょう。たとえば数千社の企業の経営を一人の人間とAIに任せれば、生き残る企業数が多いのはAI経営のほうかもしれません。しかし、倒産した企業から見て、それは許されることなのか。「統計的にダメでした」といわれて納得できるはずがないのです。

実際の経営者は、何があっても自社だけは生き残る方策を考えます。生き残るためには他社を潰すことも辞さない。それがリアルな経営です。ここに若きリーダーの生きる道があります。

Q.わが子がロボットに支配されない教育とは?

【三谷】これから10年で、仕事がAIやロボットに置き換えられます。それと同時に新しい仕事が登場する。ただし、どんな仕事が現れるかは不透明です。先が見えない中で、未来を担う子どもはどのような能力を身につければいいのか。おすすめは、身体性を伴う発想力やコミュニケーション能力です。

将来、大学教員の仕事は半分が消える可能性があります。研究者としては生き残りますが、教育者としていまのままなら不要になります。学生に知識を伝えるだけならAIで代替できるからです。一方、小学校の先生は残ります。小学校の先生は、知識や方法論を教える以前に、子どもたちを集中させたり、勉強や運動に興味を持たせる必要があります。そのためには、テキストや音声・映像データを超えた、リアルなコミュニケーションが必須。ともに走り、叫び、笑うことで人の心は動くのです。そういった身体性を伴うコミュニケーションは人間に残された最後の領域の一つです。

子どものコミュニケーション能力を鍛えたければ、異質な存在が集まる場所に身を置かせるべきです。学校なら、同じような人が集まるエリート校ではなく、幅広い層が集まる普通の学校に入れる。育ってきた背景が違えば、けんかも起きるでしょう。しかし、だからこそ相手の感情を推し量り、議論の仕方を覚えることができるのです。

【辻井】全体を見て総合的な判断を下す力はAIには簡単に代替されません。物事を幅広く見る視野の広さや、離れたものを結びつける発想力、いわゆるゼネラリスト的能力です。では、スペシャリスト教育は無意味でしょうか。私はそう思いません。

AIの登場で、将来、領域の狭いスペシャリストほど苦戦することが予想されます。しかし、スペシャリストでも、熟練工のようなトップ層は生き残ります。イノベーションを起こして突破口を開くのは人間です。その役目をザ・スペシャリスト・オブ・スペシャリスツが担い、彼らが生んだ技術をAIが受け持つ。専門家の世界は、そのような二層構造になるはずです。スペシャリスト教育をするなら、トップレベルまで突き詰めてやる。それが大切です。

辻井潤一 産業技術総合研究所 人工知能研究センター研究センター長
京都大学工学部卒。京都大学助教授、英国マンチェスター大学計算言語学研究センター教授を経て、1995年東京大学教授に。マイクロソフト・リサーチ・アジアの主席研究員を経て、2015年より現職。
 
三谷宏治 金沢工業大学虎ノ門大学院 MBAディレクター 教授
東京大学理学部卒業後、ボストン コンサルティング グループ入社。2003~06年アクセンチュア戦略グループ統括。早稲田大学ビジネススクールなどで客員教授も務める。『経営戦略全史』など著書多数。
 
(構成=村上 敬 撮影=花村謙太朗)
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