フェイクニュースに踊らされないために

国民投票でEU離脱が決まった昨年、欧米では「ポスト・トゥルース」という言葉が流行した。これは、事実として正しい情報と虚偽の情報の「差」に関心が向けられなくなり、結果的に真偽ではなく感情的なメッセージが世論に大きな影響を与える社会の有り様を意味している。要は「信じたい人が信じがたいニュースを信じる」状況が広まっているということだ。

同様にフェイクニュースを理解するうえで、私が重要だと考える概念がふたつある。ひとつは消費者の注目を集めることが大きな価値を持つようになった「アテンション・エコノミー」だ。24時間365日、常に画面の中で何かが生じている世界では、理性を働かせる前に画面に提示された情報に即座に反応してしまう。スマホを眺めて気がついたらクリックしていた、という状況はまさにその典型例である。

もうひとつが「過剰包摂」という概念である。ネットやメディアの情報に影響を受けた人が自由に他人の視点から意見しはじめ、強者の目線で生活保護者を叩いたかと思えば、弱者の目線で政治家を激しく攻撃する。こうした人々は不安から自分のポジションを明確にすることを恐れるがゆえ、好きな時に好きな立場で意見を述べ、その態度を反省することもない。そのため本当に社会的に排除される人が見えず、上から目線のポジションを取りやすいニュースに接触しやすくなる。

瞬間的反応を促す「アテンション・エコノミー」が幅を利かせ、流動的な視点で何でも叩こうとする「過剰包摂」社会が進めば、世論はますます簡単に動く。安く作られたフェイクニュースのニセ情報が人々の認識を変え、社会を動かす可能性は高まっていくだろう。

フェイクニュースに踊らされないためには、どうすればいいか。私の知る限り、「自分は踊らされない」と豪語する人ほど、騙されやすい。つまり、「自分は知らないということを知っている」という“無知の知”を意識することがまず大切だと言えよう。

塚越 健司(つかごし・けんじ)
情報社会学者
1984年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。拓殖大学非常勤講師。専門は情報社会学、社会哲学。インターネット上の権力構造やハッカーなどを研究。近著に『ハクティビズムとは何か』(ソフトバンク新書)。
(構成=Top communication 写真=時事通信フォト)
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