地域経済で地方銀行の役割は大きいが、金利低下や人口減少などで経営環境は厳しい。地銀はどうやって生き残ればいいのか。ひとつはカネを貸すだけでなく、企業を育てるビジネスモデルへの転換だ。大和総研の鈴木文彦主任研究員は、そのヒントが「才能を発掘するマンガ編集者にある」という。これからの銀行マンに求められる能力とは――。

「才能」をみつけて、ヒット作を出す

これから日本は本格的な人口減少時代を迎える。地方の成長力を確保するためには、地方の「稼ぐ力」を奮い起こすことが重要で、地方の資金循環の中心的な担い手である地方銀行の役割は大きい。

他方、金利水準の低下が進み、将来の人口減少が確実視される中、単純に貸し出し拡大を目指す従来型の地方銀行のビジネスモデルが限界に近づきつつある。貸し出し全体のパイが拡大することは考えにくく、やみくもな貸し出し競争に陥り、さらなる金利の低下を招くようなことでは、先行きが危ぶまれる。

このため地方銀行には、ビジネスモデルの転換が求められている。具体的には、直近の財務データをよりどころに審査し、担保や保証による保全を前提に融資を行うビジネスモデルから、事業に対する深い理解や、経営相談等を通じて得た情報を基に、地方企業の将来性に着眼した融資や的確な助言、その他の支援によって企業を育成するビジネスモデルへの転換が必要だ。そのカギは事業の「目利き力」になるだろう。

目利きと育成のモデルとして、イメージがしやすいのがマンガ誌の編集者ではないだろうか。

マンガ編集者は、才能を見つけ、育成し、ヒット作品を世に出すのが仕事である。編集者は、マンガ誌の新人賞に応募された作品などから才能ある新人を発掘する。そして、マンガ家の卵が持ち込む原稿を読者代表として吟味し、アドバイスを与える。生活支援のため、技術力向上のために他のマンガ家のアシスタント仕事を紹介することもある。マンガ家として十分な成長が認められれば、マンガ誌で「デビュー」できる。連載が進み、単行本がヒットすればマンガ家には多額の印税が入り、版元にも多大な収益をもたらす。ここではマンガ家とその作品が「事業」だ。編集者は事業を目利きし、育てる。

買い手代表の立場で商品を厳しく吟味する

これを端的に育成モデルと言うとすれば、百貨店やセレクトショップのバイヤーもあてはまる。まだ見ぬ素材や才気あふれるデザイナーを発掘し、新しい製品を市場に送り出すため量産化や販路開拓の面で支援する。総合商社も同様。歴史的には産地問屋、今でいう「地域商社」に期待される役割も似たようなものだ。

目利きにあたって事業を一番知る者は誰か。まずは同業者があげられよう。

名医とヤブ医者を見抜けるのは医者である。目利きにあたって事業を一番知る者としてまずは同業者があげられよう。その次に知っているのは仕入れ担当者だと思う。バイヤーは言うまでもなく、マンガ編集者もある意味仕入れ担当者である。魚市場で「目利き」する鮮魚店や料理人もしかり、「目利き」と言われるものは、買ってもらえるかどうか常に売り手の顔を頭に浮かべ、在庫リスクをおそれつつ、買い手代表の立場で商品を厳しく吟味する仕入れ担当者である。自前の販売網を持っているのでリスクをある程度コントロールできるのも強みだ。いわば販売網という「担保」を持っている。