びしょ濡れの指揮官を見た兵士の士気が上がった

敵艦も、三笠めがけて容赦なく砲弾を撃ち込んできます。指揮官を仕留めれば当然日本に大きな打撃を与えられるからです。それでも東郷はブリッジに立ち続け、戦闘が終わった時には、海に落ちた砲弾が上げる水しぶきでびしょ濡れになっていたそうです。

兵士たちは、砲弾が一発当たれば命のない状況で戦っています。

だからこそ、東郷は同じ危険に身をさらして、厳しい闘いに身を投じる兵士を鼓舞したのでしょう。あるいは、東郷の死自身が、日本国の死を意味していたという覚悟があったからかもしれません。先頭に立つ人の姿が同じ戦場に見えれば、士気も上がるはずです。

▼「言って聞かせる」だけで、先頭に立たない人

また、第二次世界大戦時の連合艦隊司令長官だった山本五十六(1884~1943)の有名な言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」というのがあります。

山本五十六(国立国会図書館所蔵)

「やってみせ」が最初に来ていることに注意が必要です。

先頭に立たない人は「言って聞かせて」から始めてしまいがちです。それでは、部下はついてはきません。すべてのことをやれと言っているのではありません。基本方針や大切なことは、指揮官先頭で行う「覚悟」が必要なのです。

企業経営は軍隊ではありませんから、命をかけてというところまではいきません。

しかし重大事には、自分が先頭に立って局面を打開するという「覚悟」が必要なのです。もし、それができない経営者ならば、それができる人に経営を譲ればいいのです。「所有と経営の分離」を行うほうが、覚悟のない経営者が経営するよりはずっと良い結果をお客さまや従業員、取引先に、ひいては社会にもたらすはずです。タカタの事例を見てつくづく感じたことです。

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