最期の言葉「愛している」は"真の愛"

海老蔵さんの会見で、私が特に感銘を受けたのは、麻央さんの最期の言葉が「愛している」だったというエピソードでした。朦朧とする意識のなかで「愛している」と言える夫婦の愛の強さは並外れたものだと思います。私が最期を迎えるとき、妻に「愛している」といえるか、自信がありません。ただ、せめて「ありがとう」という言葉が出る関係でありたいと思っています。

明治安田生命の「いい夫婦の日」に関するアンケート調査(2016年11月)では、「配偶者から言われたい一言」は「ありがとう」が25.5%で断トツでした。次いで「結婚して良かった」(9.0%)、「感謝しています」(7.8%)となっています。

がんの闘病をサポートするのに必要なのは夫婦愛です。愛がなければ、闘病のサポートはうまくいきません。海老蔵さんの足元にも及ばないかもしれませんが、私も妻を愛しています。そのことに気づかされるのは、妻をサポートしていて心身ともに限界を感じたときです。このような状態に陥っても、「妻のために」と思えば、不思議と「まだまだ頑張れる!」と自分を叱咤激励できるのです。

もちろんイライラが治まらなかったり、手伝いをしない娘に怒りをぶつけたりしてしまうこともあります。逃げ出したくなることさえあります。情けない限りですが、それでも踏みとどまることができるのは、妻への愛が強いからだと思っています。また、妻からの愛情を感じることで、救われることもあります。この夫婦愛がなければ、私のようなダメ夫は、すでに疲労で潰れてしまっているでしょう。

夫婦愛というと、照れくさいと思う人が多いかもしれません。適当に仲良くやっていればいいという人もいるはずです。それでうまくいっている夫婦もいると思いますが、「がん」という事態が引き金となって、夫婦の関係が変わることがあります。実際、私は取材を進めるうちに「がん離婚はめずらしいことではない」と考えるようになりました。

海老蔵さんは会見でこう話していました。

「とにかく、私を、どんな部分も、どこまでも愛してくれていたんじゃないかと。うん。できればずっと一緒にいて、私のほうが先に逝って、彼女にはもっと幸せに、もっと楽しく、家族やお友達や、麻耶さんやお母さん、お父さま、そして、私が役者として成長していく過程をずっと見守ってもらいたかった存在です」

この発言からも、海老蔵さんと麻央さんの夫婦愛の深さが伝わってきます。

夫婦で健康に気を遣う人はいますが、同時に夫婦の愛を深めることも忘れてはならない。海老蔵さんの会見を見て、再確認させられました。がんは手ごわく、非情なまでに夫婦からあらゆるものを奪っていきます。心の余裕を失わずにいるために、最後の拠り所となるのは夫婦愛です。