公開中の映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』。大ヒットシリーズの最新作ですが、ライターの稲田豊史さんは「過去作を観ていなくても楽しめる」といいます。話題のアニメ映画『メアリと魔女の花』と比較しながら、その「楽しさ」の秘密を読み解きます――。
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『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』
■製作国:アメリカ/配給:ディズニー/公開:2017年7月1日
■2017年7月8日~7月9日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

文句なし、安定のドル箱シリーズ

ある映画作品が映画評論家や映画ファンからどれくらい高く評価されたかと、どれくらいビジネスとして成功したか(興行収入、つまり入場料売上を稼いだか)には、それほど相関関係がありません。あなたにもきっと、こんな経験があると思います。「友人の映画好きがすごく褒めている作品なのに、人気がなくてあっという間に上映が終わってしまった」。あるいは、「大ヒットしているから行ってみたけど、ぜんぜん面白くなかった」。そこには「作品」と「ビジネス」の違いが影響しています。順を追って説明していきましょう。

今回取り上げる映画は『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』です。2003年に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』から数えてシリーズ5作目。過去4作の国内興行収入は、(1)68億円→(2)100億円→(3)109億円→(4)89億円と、4作目でやや陰りが見えたものの、文句なし、安定のドル箱シリーズと言えるでしょう。参考までに、2016年に大ヒットした『シン・ゴジラ』は興収約83億円、2015年末に公開された『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』は興収約116億円でした。

この14年間で、ジョニー・デップ演じるジャック・スパロウ船長は、世界中ですっかり人気キャラクターとして定着しました。本作では、かつてジャックに陥れられたスペイン船の艦長サラザールが亡霊となってよみがえり、ジャックに復讐を仕掛けます。

これだけのヒット作ですから、さぞ間口の広い内容だろうと思って観に行くと、冒頭から出鼻をくじかれます。少年がボートで海に漕ぎ出し、幽霊船のような船に乗っているウィル・ターナー(1、2、3作目の主人公)に会いに行くところから物語ははじまりますが、これが何を意味しているのか、何が問題になっているのかは過去の経緯、特に3作目の『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド』(2007年)の内容をかなりしっかり覚えていないと、さっぱりわかりません。……これ、10年も前の映画です。はっきり言って、忘れています。