新垣結衣と瑛太がW主演を務める映画『ミックス。』が、初登場第1位となりました。ライターの稲田豊史さんは「観客の予想と期待を裏切らない映画」といいます。しかし一方で、「こうした映画をボロクソにいう映画ファンもいる」とも指摘します。日本の映画業界が、くり返し「予定調和」の作品をつくる理由とは――。
(c)2017『ミックス。』製作委員会
『ミックス。』

■製作国:日本/配給:東宝/公開:2017年10月21日
■2017年10月21日~10月22日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

プロットはすべて予告編に描かれている

新垣結衣と瑛太がW主演を務める『ミックス。』が初登場第1位を飾りました。同日公開作である山崎賢人主演の『斉木楠雄のΨ難』(2位)、トム・クルーズ主演の『バリー・シール アメリカをはめた男』(3位)を破っての1位です。公開規模は『ミックス。』275館、『斉木楠雄』275館、『バリー・シール』291館なので、ほぼ同じ条件下での快挙と言えるでしょう。

『ミックス。』の主人公は、元天才卓球少女の多満子(新垣結衣)。彼女が成長して普通のOLとなり、イケメンの彼氏(瀬戸康史)と付き合うも浮気されて別れ、実家に帰ったところで家族に捨てられた元ボクサーの萩原(瑛太)と出会い、当初はいがみ合いながらも卓球でペア(ミックス)を組み、地元のポンコツ卓球メンバーとともに練習に励んで大会に出場し、勝利を狙う……という話。多満子と萩原のロマンスが物語の通奏低音となっています。

……というプロットは、実は映画を観ていない人でも「知って」います。予告編に全部描かれているからです。

『ミックス。』予告編
https://www.youtube.com/watch?v=oEMqDA_BRVM

そしてここが重要ですが、この予告編を観た多くの観客が想像するであろう展開のほとんどその通りに、実際の本編も進行します。もちろんストーリーの細かい部分までは想像できないでしょうが、「観た後にはきっとこんな感情が湧き上がってくるだろう」という観客の予想と期待は、大方はずれません。映画の最後には、予告編を観た多くの観客が頭に浮かべる「こうなったらいいな」を、9割がた裏切らない結末が待っています。

観客が求めるのは「想像がつく映画」

無論、一部の方は眉をひそめるでしょう。「予想した通りの内容と結末なら、わざわざお金を払って映画を観に行く意味なんてないじゃないか」。ごもっともです。

ただ極論を言えば――これは日本の映画興行において動かしがたい事実ですが――多くの観客は「観る前から展開や結末の想像がつく映画」を好みます。なぜなら彼らは、「観た後に自分が浸りたい種類の感情」をその作品がもたらしてくれることを信じて、1800円という安くもない鑑賞料金を前払いしなければならないからです。

ですから観客は1800円の投資に見合ったリターンを厳しく求めます。主人公とヒロインは最後に誤解が解けてちゃんと結ばれるのか? 最愛の人が終盤で不治の病で亡くなり、きっちり号泣させてくれるのか? 最後の大逆転勝利で気持ちいいカタルシスに浸らせてくれるのか? 想定通りのリターンが得られる安定・優良銘柄を、観客は常に求めています。