かつて映画業界には「続編は興行収入が8掛けになる」という経験則がありました。ところが、最近人気のアメコミ映画は続編になるほど興収が増える傾向にあります。なにが変わったのか。初登場1位となった映画『ジャスティス・リーグ』から、ライターの稲田豊史さんが考察します――。
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
『ジャスティス・リーグ』

■製作国:アメリカ/配給:ワーナー・ブラザース映画/公開:2017年11月23日
■2017年11月25日~10月26日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

冒頭から「スーパーマンが死んでいる」

バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマンといったアメコミ(アメリカンコミック)のスーパーヒーローたちが集結してド派手なアクションを繰り広げる『ジャスティス・リーグ』が、初登場第1位に輝きました。本作はタイトルに「2」とか「3」といったナンバリングは振られていませんが、れっきとした続編です。

映画が始まると、スーパーマンが何らかの事情で死を遂げており、アメリカ中が追悼ムードである状況がいきなり描かれます。事情を知らない人はついていけませんが、それもそのはず。本作は、16年に公開された『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』の直接的な続編なのです。

もっと言えば、『バットマンvsスーパーマン』も、13年に公開されたスーパーマン単体主演の映画『マン・オブ・スティール』の続編。つまり『ジャスティス・リーグ』の物語をちゃんと理解するには、2本の映画を事前に観ておく必要があるわけです。

ただ、それでも理解度は80%ほど。あと20%は、今年8月に公開された『ワンダーウーマン』という映画を観ておかなければなりません。これでやっと、『ジャスティス・リーグ』に登場するダイアナという女性が古代女剣士の格好で戦っている理由や、本編に登場する異世界がなんなのかがわかります。本編内では一切説明されません。

ドラえもんとオバQが同じ作品に出る

続編であることをはっきり明示しないのはともかく、別の作品のヒロインが出張出演するなんて……と不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。これは「クロスオーバー」と呼ばれる、昨今のハリウッド映画界でおなじみの手法なのです。

クロスオーバーとは、別々の作品の登場人物が同一世界観上に存在している状態のこと。ドラえもんとオバケのQ太郎とエスパー魔美が同じ1本の映画に出たり、『ドラえもん』に魔美がゲスト出演したりするようなものです。

直近の映画業界においてこの手法を成功させたのは、アメリカのコミック出版社であるマーベル社です。同社はマーベル・スタジオという映画会社を通じて、アイアンマンやキャプテン・アメリカ、スパイダーマンといった自社原作のヒーローたちを次々と映画化。意図的に互いの作品にゲスト出演させ、ときには一同に会する作品も製作してヒットを連発しました。2008年から始まったこの同一世界観のことを、「マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)」と呼びます。

そのスキームの成功を見て「うちも!」と乗り出したのが、『ジャスティス・リーグ』の原作元であるDCコミックス社。彼らはMCUに対抗(?)して、「DCエクステンデッド・ユニバース(DCU)」と銘打ちました。日本と違い、作品の著作権が著者個人ではなく出版社に帰することの多いアメリカならではの手法といえるでしょう。