普通の材料でつくる極限の味、その名も「ファイナルカレー」。カレーの達人である水野仁輔さんは、20年以上かけてたどり着いた究極のレシピを、新刊『いちばんおいしい家カレーをつくる』(プレジデント社)で解説しています。最大のコツは、加熱のコントロール。水野さんの言う「火加減、油加減、塩加減、水加減、手加減」のポイントとは――。

常識を疑う好奇心と勇気

カレーをおいしく作るために最も大事なことは、玉ねぎをアメ色になるまで炒めることだと言われています。鍋に長時間張り付いて、みじん切りにした玉ねぎを弱火でじっくり炒め続ける。木べらをこまめに回しながら。ちょっとでも焦がしたら台無し。やりなおし。逆に「全体的にきれいに色づくまで炒めることができれば、おいしいカレーの8割は約束されたようなものだ」というシェフさえいます。

本当でしょうか?

全部、間違いです。玉ねぎ炒めは、最も多くの人が関心を抱いていますが、最も大事なプロセスなわけではありません。細かく切る必要もなければ、弱火で長時間じっくり炒める必要もない。木べらはこまめに動かしてはいけない。ちょっと焦がしてもやり直す必要はありません。なぜ、こんなことがナン十年もカレーの世界で“正解”と言われ続けてきたのでしょうか?

隠し味を多用してはいけない

理由はふたつあります。

ひとつ目は、常識とされていることを疑ってみる人がいなかったから。無理もないかもしれません。発信源がプロのシェフだったりするし、長い間、それがよしとされてきたことだから、疑いの余地はないと思ってしまう。

カレーを作る上で「こうするべきだ」とされていること、多くの人が妄信していることは、たくさんあります。スパイスをナン十種類もブレンドして使う。煮込めば煮込むほどおいしくなる。隠し味を多用する、などなど。これらも誤解を恐れずに言えば、間違いです。

疑問を持つためには、さまざまな角度から物事を眺めてみようとする好奇心が必要です。みんながいいと思っていることに「本当に?」と反旗をひるがえす勇気も欲しい。そんなところからイノベーションは生まれます。これは、カレーの調理に限った話ではないかもしれません。