――厚生労働省は医療費抑制のため在宅医療を浸透させるべく、診療報酬改定を行った。患者や家族は幸せになれるのか。患者に寄り添った医療制度とはどのようなものなのか。

【近藤】私が理想とするのはイギリスやオランダのように、きちんと教育された家庭医が身近にいるという状態です。家庭医は、よくある身近な症状であれば内科も小児科も産婦人科も、ひと通りの対処ができるように訓練されていますし、患者とのコミュニケーションについても学んだ医者です。日本ではかぜをひいても大病院で診てもらうことが可能だけど、家庭医が処置できる範囲は家庭医に任せ、必要があればより高度な病院につなぐようにしたほうがいい。総合病院の数は今よりも減らせるし、あらゆる診療科を網羅したフルラインアップの病院ばかりをありがたがる風潮も変わってくるでしょう。

近藤 誠氏

それから日本では、かぜにも抗生物質を使いますが、オランダなどではありえないことです。日本はなんでもかんでも投薬しようとする。結果として耐性菌などの新たな問題を生んでいます。そのあたりは患者の側も意識を変えなければいけません。

【和田】在宅医療は、がんの看取りなどでは賛成できますが、介護には大きな問題があります。がん患者は、最後まで自分で動けて、意識もはっきりしていてコミュニケーションが取れる人が多い。そして、言い方は悪いかもしれないが、終わりがはっきりしています。

ところが介護はそうはいかない。寝たきりの介護には体力や筋力が必要です。ぼけてしまい、ときには罵倒を浴びせられながら、いつまで続くかわからない介護を普通の人が続けることは不可能なんです。もちろん高齢者を施設に隔離しろと言っているわけではありません。ただ、グループホームのような地域に溶け込むかたちで生活できる施設を増やしたり、ショートステイで家族の負担を軽減できるようにしていかなければすぐに行き詰まるように思います。在宅介護は日本の美風というような風潮が一部であるようですが、とんでもない。日本の平均寿命が50歳を超えたのは戦後のことです。