かつてない高付加価値材料ができた

当初、吉野は自らバイオディーゼルを製造するのではなく、顧客先に小型プラントを納入し、オンサイトで製造するビジネスモデルを考えていた。その方が、多額の投資をせずに技術とノウハウの提供だけですむ。ところが、吉野が必死で営業に回っても「マイクロ波などわけのわからない設備を工場内に置きたくない」と断られ続けた。

そこで、しかたなく、自社でバイオディーゼルを製造する方針に変え、量産化の装置を作り始めた。だが、簡単にはいかない。試行錯誤を繰り返すうちに資金が瞬く間に消えていった。

「資金も設備も人材もすべて足りず、測定や解析装置も高くて買えませんでした。一歩一歩地道に成果を上げ、その成果を元に助成金を得てやっと装置を買う。その繰り返しでした」と塚原は当時を語る。

少しずつリアクターの容量を大きくしていき、ようやく2010年に試作1号機とも言える20リットルのリアクターが完成した。

だが、一方でバイオディーゼル市場はいっこうに立ち上がる気配はなく、吉野は悩んだ上で、製造したものを売るのではなく、マイクロ波によるもの作りの装置とノウハウを化学メーカーに売る方針に転換した。ある意味で、元のビジネスモデルに戻ったわけだ。当時はマイクロ波による実用化プラントが一つもないときだ。メーカーの担当者は興味を持つが、それ以上踏み出そうとしなかった。

こうした中で、ある展示会に参加し、東洋インキの技術部門の責任者と会うことができた。小型プラントの建設を提案すると、すぐに賛同を得られ、2012年から出荷することができた。やはり、マイクロ波技術の力を示すためには大型プラントが必要だと痛感した吉野は、住之江のプラント建設に着手。資金や工場用地の取得などの苦労はあったが、2014年に完成した。

塚原はプラントの稼働に当たり消防署の許可を得るのに苦労した。前例のない技術を使ったプラントなので消防署も慎重になり、資料やデータのやりとりに半年近くかかった。この住之江プラントの影響力は大きく、世界最大の化学メーカーであるドイツのBASF社も竣工式に見学に来た。共同開発の話が進み、2014年に契約を締結、プラスチック原料となるポリマーの開発を行っている。

すでに国内外から100社を超える企業が見学に来ており、交渉が進んでいる案件は20件ほどあるという。基本的には顧客と共同研究あるいは技術供与によってプラントを建設することが基本だ。マイクロ波による化学品製造は、単に従来の製造工程を置き換えるだけでなく、従来方式ではできない高付加価値材料を製造することができる。例えば、極小サイズのナノ粒子は、電子セラミックスやファインセラミックス用添加剤、コーティング材料などに使われるが、マイクロ波によって粒子サイズがそろった高品質のナノ粒子を短時間で製造可能だ。

もう一つは銀ナノワイヤーである。タッチパネルに使われる導電性フィルムの材料になるが、柔軟性が高いため従来のフィルムが不可能だった折り曲げも可能になる。すでに両者とも国内の大手企業と共同研究を進めているという。今後、こうした付加価値の高い製品を中心に2020年まで最低でも年間に1カ所のプラントを立ち上げていく目標だ。日本発のマイクロ波技術が化学産業を変えるかもしれない。

(文中敬称略)

マイクロ波化学株式会社
●代表者:吉野 巌
●創業:2007年
●業種:マイクロ波化学プロセスの研究開発およびエンジニアリングなど
●従業員:41名
●年商:非公開
●本社:大阪府吹田市
●ホームページ:http://www.mwcc.jp/
(マイクロ波化学=写真提供)
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