弱いオバマvs.強いトランプ

オバマ大統領への評価として象徴的なものが、2014年12月23日付ニューズウイークでの同誌政治コラムニスト、ウイリアム・ドブソン氏による「内政も外交も失政続きの弱腰大統領」との指摘だ。

さらには、ギャラップ社による「米国の方向性に対する満足度調査」を見ると、オバマ政権下ではその満足度が、チャートのとおり、低水準で推移していることがわかる。この指標は大統領選挙において、現職大統領への支持率とともに注目される数値であるが、ギャラップ社が調査を開始した1979年以降の平均値が37%なのに対して、オバマ政権では89カ月間の平均値が24%にとどまっている。

このような現職大統領の分析結果を踏まえて、共和党の候補者はいずれもが現職大統領であるオバマ大統領を強く批判することを予備選挙の中核に据えていた。

特にトランプは当初からオバマとの間にシンプルで明快な対立軸を打ち出すことに注力した。「オバマvs.トランプ」の対立軸を「弱いvs.強い」と見せて、予備選挙を戦ったのだ。これにより、予備選の段階から無党派や民主党の有権者などの注目を集めることに成功した。

そのなかでトランプが当初から自らの中核的支持層とした白人労働者層について、彼らが最も怒りや不満を感じていることとして以下の3点を想定していたと分析される。

◆人口構成の変化や移民増加により、白人の権利がマイノリティーの権利によって制約を受けているという感情
◆ポリティカル・コレクトネスにより、「旧き良き時代」の価値観が変化しているという感情
◆テロの増加や中東からの移民増加により、安全保障が脅かされているという感情

客観的な是非はともかくとしても、オバマ政権の8年間で移民がさらに増加したことによるマイノリティーの権利重視や、ポリティカル・コレクトネスという価値観の高まりが、白人労働者層に予想以上の強い怒りや不満を与えていたのだろう。トランプが選挙戦を通じて米国の分断をより広げたことは確かだと思われるが、その前の8年間に起きていたことにも目を配る必要があろう。