「形質変更時要届出区域」に指定

実は、土壌汚染対策法は制定時にあらかじめ、「附則」の経過措置として免責規定が盛り込まれていた。同法が「ユルユルの法律」だと述べた理由の一つでもある。このような条文だ(丸カッコ内は筆者注)。

附則第三条「第三条(←本則)の規定は、この法律の施行(2003年2月15日)前に使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地については、適用しない」

言うまでもなく、東京ガスが豊洲の地の使用を廃止したのは土対法の施行前である。もし、法改正でこの附則第3条が外されたり、または本則のどこかに新たに厳しい規定が盛り込まれるなどして、豊洲の予定地が土壌汚染対策法の規制対象区域に指定されれば、そこは「汚染地域」として確定し、手続き上、大掛かりな汚染調査と根本的な汚染対策が義務づけられることになる。豊洲の用地取得で都は、所有者である東京ガスが汚染対策を免れ得る「瑕疵担保特約」を差し出して買収契約を成功させていたからである。

そうした経緯から、ただでさえ莫大なコストが発生するのに、盛り土だけで埋め尽くしてしまえば、当然、その後の汚染再発時に対策のための機器やシステムが搬入・設置できず、工事で稼働させることになる重機の出入口もなくなる。

東京都の幹部や担当者、専門家会議の委員たちが法改正の行方を注視していたのは、豊洲予定地にそうした対策が必要になるか否かで変わる土壌汚染対策の必要枠である。都の担当者は当時、法改正で豊洲の敷地が汚染指定区域になった場合を想定し、前述の諸作業に備えた建物下の空間確保がどうしても必要だったわけだ。こうした懸念から「盛り土が地下空間に化けた」のである。

豊洲新市場が“汚染された土地”に指定されれば、「築地ブランド」とは無縁の市場となり、集荷も激減することが予想される。慎重な業者が営業的にも豊洲への移転を渋るのは当然だろう。実は、汚染調査のためにボーリングで穴を空ければ、土壌が汚染されていた場合に地下水が汚染される。地下水が汚染されていたら上にのぼってくる。前回も述べたように、もともと豊洲は無理筋なのだ。

無理筋を何が何でも通せば、汚染地の調査と対策を東京都自らが課し、実施せねばならなくなる。調査・対策の予算は当然、都議会の承認を前提とする。議会では質疑応答が紛糾し、メディアが報じて大騒動が予想されることは明らかであり、間違いなく「豊洲への築地市場移転問題」が再燃する。

「地下空間」を設置せず汚染対策に何の手も打てないとなれば、その時点で担当幹部らが重大な責を問われ、すでに至上命題となっていた築地市場の移転も先が見えない暗礁に乗り上げることになる。都の幹部らは、改正法で豊洲予定地が汚染地域に指定されるかもしれないと、常に喉につっかえたような不安を抱いていたのである。

2008年7月、旧専門家会議が敷地全体の盛り土を提言し、同年12月に都は「技術会議」を設置して汚染対策工法の検討を開始する。予想通り、09年に土壌汚染対策法が改正され、10年4月に施行。豊洲新市場の予定地は、汚染対策が困難な自然由来の有害物質があるなどの理由で、11年11月に都知事への届け出を義務づける「形質変更時要届出区域」に指定された。

ちなみに、旧法施行から約半年後に環境大臣となったのが、いま辣腕を揮っている小池百合子都知事である。環境大臣として3年間在任中は、今回の汚染問題の急所である「附則第3条」が有効な土対法が運用された。

とはいえ、改正法の諸規定にも同様の甘い規定が残っている。その改正法にさえ「形質変更時要届出区域」として指定された豊洲予定地は、誰が判断しても明らかに生鮮食料品の市場としては不適と言わざるを得ない。

以上で、豊洲新市場の「盛り土と地下空間の謎」は、ひとまず解けたかのように見えるわけだが……。実は、その謎の解明が、本連載の取材過程で新たな火種を炙り出すことになった。移転を推進するため、改正法を横目に水面下で手を打とうとしていた関係者らは、汚染対策のための地下空間設置へとコトを運ぶ際に、どうやら危うい手掛かりを残してしまったのである。(つづく)