絶妙のベストミックスとバランスの取れた賢さ

その間に出会ったシンクタンクの研究者やジャーナリストたちとの知的交流と人脈形成が彼の知見を広げていく。寺島氏はそれを、地球儀を手にしながら考える地政学的視座と呼んでいる。そうすることによって初めて掴めるのが、表面的な動きではなく真に価値のある情報なのだ。

そこから見えてきたことは、ここ10年以上にわたって進行しているエネルギー地政学上の課題だった。一方にはマネーゲーム化する原油市場があり、その裏側でアメリカをはじめとする大国の横暴が招いたテロリズムの暴走がある。しかも、残念なことに、こうした現実を阻止できる有効な手立てはいまのところない。

寺島氏はこの本で「結局、日本のエネルギー戦略に問われているのは、多次元的な賢さである。簡単な言葉を使うと、絶妙のベストミックスであり、バランスの取れた賢さが求められる」と説く。それだけに日本は、中東諸国とは適切な距離感を保ち、立ち位置を決して間違えてはいけないというのだ。エネルギーミックスについては、原子力の行方も視野に入れなければならないのは当然のことだろう。

いま、寺島氏は硬派の論客としてメディアで頻繁に登場し、国内外の経済、政治、外交の広い分野で発言をしているが、そのバックボーンは、こうした世界との格闘によって形成されたということになる。本のサブタイトルは「全体知への体験的接近」であるが、一商社マンのビジネス戦記として読んでも興味深い。

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