京都大学iPS細胞研究所との共同研究

【田原】もう1つ。ライフサイエンスではどこと組んでいるのですか。

【西川】山中伸弥先生のCiRA(京都大学iPS細胞研究所)と共同研究をしています。iPS細胞の技術は、幹細胞が専門細胞になる流れをリセットするものです。ただ、中途半端にリセットすると、本当は何にでもなれるはずの細胞がおかしな挙動をすることがあります。その原因を究明する研究ですね。

【田原】そこにコンピュータを使うのですか。

【西川】細胞に起きる現象はとても複雑です。しかし、薬を細胞に投与したときにどう変わったのかというデータをたくさんとって解析すれば、細胞の挙動が予測できる。そこをコンピュータでやるわけです。

【田原】トヨタやファナック、それに山中さんの研究所も世界でトップクラスだ。これらと組むのは日本の企業だからですか。それとも世界でトップだからですか。

【西川】後者です。日本で生まれてよかったとは思いますが、日本だけで活動しようとは考えていません。たとえばいまカリフォルニアに拠点をつくって、ネットワーク装置をつくっているシスコシステムズと協業しています。ITの分野だと日本は遅れているので、そこは世界と積極的に組んでいきます。

【田原】なるほど。ところでネットワークの会社と協業って、何をするんですか。

【西川】たとえばクラウドで機械がつながっているとしますよね。クラウドと機械の通信が0・2秒かかるとすると、機械同士で「おまえはあっちを見ろ」と情報をやりとりして制御するのにレイテンシー(遅延)が0.4秒かかるわけです。0.4秒遅れれば、時速100キロで走る自動運転車ならかなり進みますよね。一方、機械同士をネットワークでつないで協調させれば、0.001秒といったレベルで判断して、リアルタイムで連携が可能になる。そういった研究をいま進めています。

優秀な人材を集めるのに必要なこと

【田原】西川さんの会社はいま40人だそうですが、そのうちプログラマーは何人くらい?

【西川】プログラマーと研究者など技術系の人が約35人で、残りの人がバックオフィスです。

【田原】あれ、営業は?

【西川】営業担当は置いていないですが、シニアのメンバーと一緒に僕が営業に行っています。シニアはいろいろで、もともとソニーでPS3の開発をしていた人とか、小売系の大手でファイナンスをやっていた人が、一緒にやってくれています。

【田原】大手でキャリアを積んだ人が、どうして西川さんのところに入ってくるのですか。

【西川】シニアの人にかぎりませんが、僕らが中長期を見据えてやっているテーマや方向性に共鳴してくださる人が多いんじゃないでしょうか。いま世界ではプログラマーの採用競争が過熱していて、いい人材をいかに集めるかが課題になっています。いい人材を集めるには報酬も大事ですが、それ以上に、中長期でどのような技術をつくり、何を変えていきたいのかというところが鍵になると思います。

【田原】将来はどのぐらいの会社を目指すのですか。

【西川】人数は多くても200~300人ぐらいじゃないでしょうか。プログラムを組む部分は将来、機械ができるようになるので、人数はあまり多くなくていい。もちろん人数は少なくても、世界中のあらゆる機械に僕らの半導体が入っているという状況はつくっていきたいです。

【田原】半導体ですか。そうなると半導体の研究者も必要ですね。

【西川】半導体は、いま取り組みを始めたところです。たしかに半導体の人たちはディープラーニングの人たちと違うので、半導体の優秀な人たちに興味を持ってもらえるようにしていきたいです。人材獲得がクリアできれば、あとはなんとかなるんじゃないかと。

【田原】そうですか。将来が楽しみですね。頑張ってください。

西川さんから田原さんへの質問

Q. 憧れの声優がいる。会うにはどうすればいい?

【田原】僕は会いたい人に会えずに苦労した経験がほとんどありません。年を取って、偉くなったからだろうといわれますが、それは違う。松下幸之助や盛田昭夫、本田宗一郎に会ったのは若いころです。コツは会いたい理由を素直に話すこと。優れた政治家や経営者は人の話を聞くのが好きだから、カッコつけずに本音を話せば受け入れてくれます。

心で願うだけでなく、「会いたい」と発信し続けることも大事です。西川さんは声優の水樹奈々さんに会いたいそうですね。僕は水樹さんと直接のつながりはないけれど、間を取り持ってくれそうな人に会えたら、「将来有望なベンチャーの経営者が会いたがっている」と伝えておきます。積極的に発信すれば、チャンスはやってくるのです。

田原総一朗の遺言:発信し続ければチャンスがくる!

編集部より:
次回「田原総一朗・次代への遺言」は、ミライロ社長・垣内俊哉氏インタビューを掲載します。一足先に読みたい方は、9月26日発売の『PRESIDENT10.17号』をごらんください。PRESIDENTは全国の書店、コンビニなどで購入できます。
 
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
【関連記事】
グーグルX創設者が語る「『人工知能』で生活はどう変わるのか」
脳科学者は「人工知能社会」をどう考えるか?
「無人運転」の実用化で世界はどう変わるか
「Pepper」を導入するソフトウェアメーカー・テンダの狙い
もはや英語より必須!? 文系も「プログラミング」を学べ