様々なところに女性を登用することで、社内での女性管理職の発言権は日増しに大きくなると同時に、人数も今や22人と倍増。最近では、会議でも男性社員がたじたじになるほど、女性たちの声が活発だ。

「女性はこれまで組織で重視されてこなかった分、組織の論理に左右されないので、お客様目線に近い。それが男社会からは出なかった改革、改善の芽となり、会社や組織を変える力になると期待しています」(渡辺)

井上は、女性の登用以外にも、希望の職種を人事のローテーションに生かす「自己申告制度」や人事評価の基準づくりなどに着手している。

こうした取り組みで井上が目指すのは、業務の合理化や効率化とともに、常磐興産にある「上意下達」の体質を変え、一人ひとりが自分の頭で考え、自主的に改善できる人材を育てることだ。

硬い岩盤はゆっくり溶かすにかぎる

井上はこれまでの経験とキャリア、仕事以外で培ってきた素養まで総動員し、コツコツと楔を打ち込んでいる。井上はキャリアの締めくくりに、なぜ三重苦の組織を選んだのか。その答えは、新天地で溌剌と動く彼の後ろ姿のなかに見える。だが、前社長の斎藤から託されたミッションに応える成果はまだ見られない。

52年前、ハワイで修業を積んだ後、この地で一からフラガールを育成してきた常磐音楽舞踊学院・最高顧問のカレイナニ早川は、炭鉱の町に夢の島(常磐ハワイアンセンター)を築いた常磐興産の中興の祖、中村豊の人物像と井上を重ね合わせる。

常磐音楽舞踊学院 最高顧問 カレイナニ早川氏

「中村さんは芸事がお好きで、人を惹きつける明るさがあり、発想が豊かな人でした。中村さんを思わせる方が社長に就いたことは、ハワイアンズにとって幸運です」(早川)

だが、半病人の状態で拙速な改革をすれば、しっぺ返しがくるだろう。

「50年前とは違うでしょうが、いわきの人は保守的で結束は岩のように固いです。硬い岩盤はゆっくり溶かしながら、変えていかれるのがいいですよ」と井上にアドバイスする。