「ゲーム理論」という言葉を聞いたことのある読者は多いと思う。複数のプレーヤーが選択するそれぞれの戦略が、当事者や当事者の環境にどう影響するかを分析する理論である。簡単に言えば、2人以上の人が利害関係にあるとき、どのような結果が生じるかを示し、どう意思決定すべきかを教えてくれるものだ。人に限らず企業や国家間にも当てはまり、ゲーム理論は欧米ではMBA取得に必須とされ、日本でも多くのビジネスパーソンが仕事に活かしている。

では、ゲーム理論の基本を有名な「囚人のジレンマ」のゲームで学んでいこう。今回は囚人を営業マンに置き換えて考えてみたい。

A社とB社はライバル企業。同じ顧客であるC社に対して自社商品を納入すべく激しく競っている。ただし、業績悪化でAB両社ともに経費削減が会社方針。接待も極力減らすように指示が出ている。とはいえ、ライバル社が接待攻勢をかけているとすれば、黙って見ているわけにはいかない。

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接待合戦に見る「囚人のジレンマ」

そこでAB両社の営業マンは相手の出方を予想しながら戦略を練ることになる。そのときに取る選択肢は、図のマトリクス(別名「利得行列」)にある4通りとなる。(1)A社は接待せず、B社は接待する。(2)A社は接待し、B社は接待しない。(3)AB両社ともに接待しない。(4)AB両社ともに接待する。

まず、A社の立場に立って考えてみよう。B社が接待しない場合、A社は接待したほうが得だ。受注の可能性が高まるからだ。一方、B社が接待する場合もA社は接待したほうがいい。そうでなければB社が受注する可能性が高くなるからだ。つまり、A社はいずれの場合も接待したほうが得なので、合理的に判断すると、接待すべきということになる。B社も同様に考え、接待するはずだ。したがって互いに合理的に判断すれば、両社ともに接待し、引き分けとなる。

ここで両社の営業マンは、「とりあえず負けは避けられたのでよかった」と胸をなでおろす……。とはならないのが、囚人のジレンマのジレンマたるゆえんである。

図の左上、AB両社ともに「接待しない」場合を見てほしい。やはり引き分けだ。しかも、接待費はゼロ。つまり、会社方針の経費削減を実行しながら、勝負を引き分けに持ち込めるのだ。言うまでもなく、この選択のほうがベターだ。AB両社は「合理的な選択」をしたはずなのに、「非合理的な選択」のほうがよりよい結果になる。これが囚人のジレンマなのだ。

それでは、このジレンマを解消する方法はあるのか? ある。前もって協定を結べばいいのだ。AB両社の営業マンが互いに接待しないほうが得だと話し合う。そうすれば両社ともにベターな結果が得られる。ただし、裏切った場合にペナルティを科すなどの拘束力が必要だ。

このような自分と相手が同時に(互いの戦略はわからずに)戦略を選択するゲームを、「同時ゲーム」という。