なぜ日本の観光客は韓国より少ないのか

【弘兼】加賀屋のような力のある旅館は、これからの日本経済を考えるうえでも重要です。今後、観光産業は日本の主要産業となるだろうし、そうなるべきです。しかし、現状はまだまだ。国連の「世界観光ランキング」によれば、2012年の1位はフランスの8301万人、2位はアメリカの6696万人、3位は中国の5772万人です。4位はスペイン、5位はイタリア。一方、日本は836万人で33位。韓国は23位で、それよりも低い順位です。

【小田】日本のポテンシャルを考えるとさみしい順位ですね。

【弘兼】日本には豊かな自然と、和食と日本酒に代表されるおいしい食事がある。そのうえ加賀屋のような、もてなしの文化があります。この魅力をもっと世界に発信すべきですよね。ちなみに加賀屋で最高級の部屋はおいくらなんですか?

【小田】定価で1泊30万円の部屋があります。1泊2食付きで、1人約3万円の部屋が最も多いですね。最高級の「雪月花」は約5万円です。

【弘兼】海外には富裕層を対象に1泊100万円といったホテルも数多くあります。加賀屋のサービスの質を考えれば、1泊2食で約5万円はまったく高くない。リピーターが相次ぐのはよくわかります。

10年12月、加賀屋は台湾に「日勝生 加賀屋」を開業した。場所は首都・台北から電車で約30分の北投温泉。現地企業の呼びかけに応じ、はじめての海外事業に乗り出した。14階建て全90室の建物は、内装から大浴場、接客まで、能登・加賀屋の流儀が貫かれている。
(上)台湾にある「日勝生 加賀屋」の客室。ベッドを備えた寝室もある。(下)14階建て90室。1泊2食で約3万円から。日帰り客も多く、日帰り入浴は約3500円。

【弘兼】台湾でも日本のおもてなしが評価されているそうですね。どのようにして現地のスタッフに加賀屋の流儀を浸透させたのですか。

【小田】長年、教育係を務めていた客室係を1年ほど台湾に滞在させ、現地の客室係を徹底的に指導しました。我々のような和風の温泉旅館は、台湾にはまったくありません。「おもてなし」に高い期待が向けられていたからか、現地のスタッフも素直に吸収してくれたようです。サービスレベルは日本と遜色ありません。

【弘兼】13年、台湾から日本には221万人の観光客が来ました。これは韓国に次いで2番目。加賀屋にも多くの宿泊客が来ているそうですね。日本を周遊するツアーでは、目玉企画として、最終日に加賀屋に泊まるものが人気だと聞きました。

【小田】13年は台湾から約1万6000人のお客様が宿泊されました。特に2月の春節(旧正月)には、館内が台湾からのお客様で占められてしまうこともありました。台湾の旅行代理店は「加賀屋は日本で1位の旅館」と紹介してくださっています。

【弘兼】34年間、1位を続けてきたことが、財産になっていますね。

【小田】父は社長時代、「日本で2番目に高い山を知る人は少ない。2位ではダメだ。1位を目指そう」といっていました。高くご評価いただけることは、我々の励みにもなります。