2016年2月12日(金)

台湾から毎年1万人超が殺到! 老舗旅館のサービス術

弘兼憲史の「日本のキーマン」解剖:加賀屋5代目社長 小田與之彦

PRESIDENT 2014年12月1日号

田崎健太=構成 門間新弥=撮影
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陸路では6時間ちかく、それでも「東京」が最多

【弘兼】昨晩、はじめて加賀屋に泊まりましたが、温泉、食事、設え、いずれもすばらしいものでした。評判通りの温泉旅館ですね。ただ、ここに来るまではなかなか大変でした。東京から新幹線や高速道路を使うと6時間ちかくかかります。私は飛行機で最寄りの能登空港から来ましたが、1日2便しかなく、そこからさらに車で45分。小松空港や富山空港を使う場合は、車で1時間40分ほどかかります。それでも東京からのお客さんが一番多いそうですね。

加賀屋5代目社長 小田與之彦(おだ・よしひこ)
1968年、石川県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。丸紅、シェラトン・ワイキキ・リゾートホテルでの勤務を経て、コーネル大学大学院ホテル経営学部に留学。99年加賀屋入社。2007年から副社長を務め。14年より現職。08年には日本青年会議所会頭を務めた。

【小田】そうですね。一番多いのが東京を含めた関東圏、次が地元、続いて関西圏、中京圏という順番です。関東圏が3割程度を占めています。

【弘兼】かつて温泉地には大型の旅館がたくさんありましたが、いまではどこも苦戦を強いられています。関東圏では熱海温泉の盛衰が印象深いところです。その一方で、加賀屋が支持されるのはなぜでしょうか。

【小田】東京から近ければ、いつでもお客様に来ていただける、と甘えていたかもしれません。私たちの旅館は不便なところにありますから、サービスを磨き続けるしかありませんでした。私どもは田舎の旅館ですから、田舎らしいおもてなししかできません。お出迎えからお見送りまで、気働きで心を尽くす。そんな田舎の素朴さが、東京の方には新鮮に映るのかもしれません。

加賀屋は能登半島の東側、石川県七尾市の和倉温泉にある温泉旅館だ。創業は1906年。増改築を繰り返し、現在は四棟に232室を備える。1958年に昭和天皇・皇后両陛下が宿泊されたほか、2013年にも皇太子殿下が宿泊されるなど、皇室とのゆかりも深い。旅行新聞新社が主催する「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」では、34年連続で総合日本一に選ばれている。
その特徴は独自の「おもてなし」にある。加賀屋では、到着から出発まで、滞在中は一貫して同じ客室係が担当する。宿泊の目的、食事の好み、寝具のこだわり。これまでの経験と滞在中の短いやりとりで、客の要望を把握し、担当の客室係が対応に専念する。客室係に礼状を送ってくる客も珍しくないという。

【弘兼】加賀屋の客室係は客の要望に対して、原則として「ありません」「できません」とはいわないそうですね。客が「××という酒を飲みたいね」と話しているのを聞きつけ、その晩に金沢の酒屋までタクシーで買いに行った、という話も聞いたことがあります。これは本当ですか?

【小田】そういうこともありますね。すぐに「できません」と即答するのではなく、ご要望にお応えできるよう努力することが大切です。

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