増改築で大型旅館に、接客を支えるハイテク

加賀屋を現在の形に拡げたのは、小田社長の父親で、現在は相談役を務める3代目の小田禎彦である。
加賀屋の歴史は増改築の歴史だ。81年に30億円を投じて、180室1000名収容の「能登渚亭」を建設。この年、前出の「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で初めて総合1位となっている。89年には20階建ての新館「雪月花」を新築。同時にロボットによる料理の自動搬送システムを導入した。ロボットが台車を吊り上げ、天井のレールに沿って厨房から各階の配膳室まで自動的に運搬する。加賀屋では、それぞれの客室で落ち着いて料理を食べられる「部屋出し」を売りにしている。客室数が急増してもサービスレベルを維持するために導入されたのが、自動搬送システムだった。

【弘兼】従業員数はどれぐらいですか。

【小田】社員は約600人。そのうち客室係が約150人ですね。

【弘兼】昔の旅館では、仲居さんたちが廊下を走り回って料理を運んでいました。あれは重労働だと思います。加賀屋では自動搬送で負担を軽減していますね。さきほど拝見しましたが、老舗旅館の裏側にハイテクが備わっているとは驚きました。

【小田】客室係がお客様へのおもてなしに集中するにはどうすればいいか、という発想から導入したものです。ロボットにできることは、ロボットに任せて省力化する。一方で、お客様と接する部分は人間にしかできません。人の温かさでもてなす、というのが我々の考え方です。

【弘兼】これだけ大規模になると、サービスレベルを高く保つのは大変だと思います。どのように工夫されているのですか。

【小田】加賀屋では女将に加えて、それぞれの客室棟ごとに、接客のグループリーダーがいます。いわばミニ女将です。彼女たちが現場をまとめ、教育係も務めてくれています。

採用も重要です。田舎ですから、全国から人材を集めてくる必要があります。加賀屋では86年に企業内保育園「カンガルーハウス」をつくりました。シングルマザーでも安心して働ける環境を整えるためです。静かなところですから、ご本人もお子さんも、落ち着いた生活ができるようになります。私の妻も、女将として働いている間は、子どもたちを加賀屋の保育園に預けています。

(1)専属劇団「雪月花歌劇団」のショー。加賀屋のオリジナルソングもある。(2)夕食の一例。(3)夜には輪島に伝わる無形文化財「御陣乗太鼓」の披露があった。(4)食事の自動搬送システム。ロボットが台車を宙づりにして運ぶ。(5)厨房の様子。(6)企業内保育園の園庭。(7)小田社長の子どもも通う。