文藝春秋らしからぬタイトルと、牛のイラストが可愛い著者への親近感から手にとった一冊。面白かった。仕事術のテーマで、これだけ読者をニヤッとさせる本はそうないだろう。

さて、みうらじゅんといえば、「ゆるキャラ」の命名者で、仏像ブームの仕掛人で、バンドを作って歌い、奇想天外な企画本を連発する人。ポップな感覚で時代を渡り歩く自由人というイメージが強い。しかし、読後の印象として残るのは、何とも真面目で粘着質な人物像だ。

「私だって『今、ゆるキャラが面白いよ』と一言言って、ブームになるのであれば、それに越したことはありません。しかし当然ですが、その程度では人は興味を持ってくれません」

名称もジャンルもなかった地方のマスコットに絶妙のネーミング。それは「ない仕事」を作る出発点にすぎなかった。「こんな面白いものが流行らないわけがない!」と自分を洗脳し、「無駄な努力」を重ねていく。物産展を渡り歩き、ビデオカメラで動きを記録し、グッズを大量購入。そして、雑誌でゆるキャラ紹介の連載を勝ち取るために何と編集者を接待。戦略なのか、愛なのか、ひたすら一途に突き進む。この地道な努力は、ブーム到来まで10年近く続くことになる。

「海女が来る!」と様々なグッズを買い集め、千葉の「海女祭り」にも通うが、なかなかブームが来ない。NHKの朝ドラ『あまちゃん』の放映で努力が報われたのは、かれこれ20年後だった。とにかく長期戦略! 少年時代に作成した怪獣や仏像のスクラップの緻密さにも驚くし、よくこんなに綺麗に取っておくなぁと感心する。かなり気の長い人のようだ。

もちろん、笑って感心して終わりという本ではない。何かを始めるときは「私が」ではなく、「海女が」「仏像が」で考える(「自分なくし」)。チームで仕事をするときは、自分と似たタイプでない人と組む(「異能戦士が横並び」)。ここぞという企画では、広告代理店がやる仕事を全部フォローする(「一人電通」)。さりげなくちりばめられた仕事術の極意には、おおいに頷けるものがある。

一方、本書には、「みうらじゅんというキャラクターあってこそ」の部分も少なくない。その点、読みながら仕分けが必要だ。

たとえば、自然体では「ない仕事」は作れないので、無理にでも不自然にしようと著者は説く(「レッツゴー不自然」)。コンセプト自体は理解できる。でも現実問題として、自分の事務所に70万円もする高級ラブドールの「絵梨花さん」を置いて、来客にわざと違和感を抱かせる戦術は如何なものだろうか。一般人がうっかりマネると火傷するような実践も含まれているのでご注意を。

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