2016年1月18日(月)

『ジオエコノミクスの世紀』イアン・ブレマー、御立尚資著

新刊書評

PRESIDENT 2016年1月4日号

著者
柳川 範之 やながわ・のりゆき
東京大学大学院経済学研究科教授

柳川 範之1963年生まれ。88年、慶應義塾大学経済学部通信教育課程卒業。93年、東京大学大学院博士課程修了。経済学博士。96年、東大助教授。2011年より現職。『法と企業行動の経済分析』『東大教授が教える独学勉強法』など著書多数。

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東京大学大学院経済学研究科教授 柳川範之=文

夢のような共演とはこのことだろう。『「Gゼロ」後の世界』を著したユーラシア・グループ社長イアン・ブレマー氏と、ボストン コンサルティンググループ日本代表の御立尚資氏。世界的に著名な国際政治学者と経営コンサルタントが、地政学と経済の相互関係を論じたのが本書である。

こんな贅沢な内容の本を読まないのは、あまりにももったいない。是非ともお勧めしたい一冊だ。

タイトルの「ジオエコノミクス」とは、本書によれば「自国の発展のためだけではなく、国家安全保障の強化も加味して経済政策をつくり、それを推進するための戦略理論」のこと。近年急速に発達した分野で、ダボス会議で知られる世界経済フォーラムでも専門家グループがつくられている。

そしてこの本では、日本のビジネスリーダー向けに、この地政学と経済・ビジネスの相互関係が、様々な角度から解説されている。

国際政治情勢が何となく混沌としていることは多くの読者も気づいておられることだろう。また、テロ等も頻発しており、世界的に見るといろいろな意味での危険性が高まっていることも、認識としてはあるに違いない。

しかし、このような世界情勢がどのような変化を今後示していくのか、今後どんな世界が現れてくるのかについてはぼやっとしたイメージしかない人も多いのではないだろうか。本書はそのような漠然とした認識に、クリアなビジョンを与えてくれる。

そして、それがビジネスや企業戦略に大きな影響を与えうるのだということを、説得力のある説明で、読者に訴えかけてくる。

当然のことながら、本書には中国という言葉が頻繁に出てくる。この中国といかに向き合うかは、日本政府、日本企業にとっては大きなポイントだ。しかし、それだけではない。ロシア情勢、ヨーロッパ情勢等幅広く世界全体の動きに目を配り、それが自分のビジネスに与える影響を絶えず考えていくことが、いかに重要かを本書は教えてくれる。

本書の脱稿後にパリでのテロ事件が起こったため、残念ながら、あの事件が今後ヨーロッパや世界に与える影響等は議論されていない。是非とも両著者には第2弾を書いていただき、そのあたりの分析もしてもらいたいところだ。

また、本書で強調されている地政学的なリスクがビジネスに与える影響だけでなく、ビジネスや企業の経済活動が、やり方によっては、地政学的なリスクを減らす貢献もできるのだという点は、経済学者の評者としては、本書を読んだうえでの大きな気づきであった。

大きなメッセージだけでなく、語られている個々のエピソードからも様々な気づきがある。そんな書物はなかなかない。

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