新人を一人前にするのに研修も長期化

第2に採用したら仕事を教える前に、態度姿勢を矯正しておくこと。まっすぐ立っていられない。「はい」と返事ができない。挨拶ができない。話ができない。人の話を聞けない。集団の中で自己中心が目立つ。全部ではないがこれらが多くの若者に共通する欠点である。

会社はこうした欠点を放っておいて、新入社員にすぐ仕事の手順や技術を教える。そのほうが楽だからである。社員の抵抗も少ない。そのかわり、いつまでも「使いもの」にならない。

欠点を直すには訓練が適している。合宿による集団生活、それも知らない人と寝食を共にする。1人が不合格なら全員が責任をとる集団罰のある訓練。礼儀や生活のマナー、教官への服従、敏速な行動、話す、聞く、歌う、読む、書くなど基本能力を伸ばす訓練を行う。これにより仕事に立ち向かう姿勢、会社や上司に対する基本認識ができる。命令報告のルールが身につく。ここで逃げ出さなければ「使いもの」になる社員になれる。

第3の方法。これは会社の涙ぐましい気遣いを感じさせる。それは新人研修に気が遠くなるほど、たっぷり時間をかけることである。

目標、ノルマ、命令、競争といった怖いものに触れさせないようにする。できる限り仕事をさせない。現場に出さない。つらい目に遭わせない。学校の勉強の延長のように講義から入り、だんだんに実務訓練を取り入れ、少しずつ厳しくしていく。2カ月に半月出社して先輩や上司に慣れさせる。

研修の長期化は、仕事が難しくて教えることが多くなったからではなく、青年を会社に慣れさせるためである。短期の研修で仕事につけるとごそっと辞めてしまう。この損失は1年間遊ばせる損の数倍になる。これが長期化の理由である。

最近の大企業の新人研修は半年、1年はざらであり、1年半、2年というところも出てきている。入社式のあと研修所に送り込んで隔離する。難易度の高い技術習得のためもあるが、病原菌にいっぺんにやられてしまわないための配慮である。少しずつ免疫をつけて強くする。まるで病弱な人を空気のいいところでゆっくり療養させるように……。

人を大事にする「日本的経営」の究極の姿である。こんなゼイタクができるというのは羨ましいが、こうまでしなければ一人前の社員を得られない現実は泣けてくるではないか。

※本連載は書籍『ザ・鬼上司! 【ストーリーで読む】上司が「鬼」とならねば部下は動かず』(染谷和巳 著)からの抜粋です。

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