中国政府が悪夢を見るのはこれからだ

中国株市場では8割が個人投資家で、しかもその多くが借金をして投資している。アメリカの大恐慌の直前と同じく株は借りて買うのが当たり前なのだ。それゆえに政府がいくら対策を講じて株価を戻しても再び下降する運命にある。株価の上昇局面では株価が上がれば買いが殺到する。しかし、下降局面では、損切りしてでも売り払って借金を返そうという心理が働くから、株価が戻った瞬間に売りが殺到するのだ。羹に懲りた中国人投資家は、しばらく株式市場には戻ってこないだろう。そもそも時価総額的にいえば上場企業の半分以上は国営企業。中国の国営企業といえば世界に冠たる非効率な組織だ。企業の現在価値に相応しいレベルまで株価が落ちるとすれば、3割減、4割減では済まない。この1年で株価は半分以下になるかもしれない。

この中国バブルの崩壊は89~90年にかけての日本経済のスローダウン、つまり日本のバブル崩壊とは比較にならないくらい世界に甚大な影響を及ぼす。たとえば人類史上例のない中国の大開発ブームを支えてきた巨大な産業群。その裾野は広く、鉄鋼会社だけで100社もある。日本が鉄鋼世界一だった時代の粗鋼生産高は1億6000万トン。中国の現在の粗鋼生産高は7億トン。セメント業も、ゼネコンも、規模が半端でない。そうした巨大な建設マシンの企業群がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を猛烈にプッシュしている。国内が頭打ちなら海外でインフラをやろうという経済植民地主義だ。

中国の巨大な建設マシンの企業群は、どこに向かうのか。(写真=AFLO)

バブル崩壊で仕事がなくなる企業をどうするのか、中国政府が悪夢を見るのはこれからだ。他方、中国の急成長に乗っかって資源や原材料、食料や各種製品を輸出してきた海外の企業も厳しい局面を迎える。今まで調子がよかった国や企業は、中国依存が非常に大きかった。その中国に突然死されたら、後追いしかねない。今回のバブル崩壊は29年のアメリカのバブル崩壊と同等のインパクトがある。世界大恐慌に匹敵する不況を招く恐れがあるのだ。

社会主義市場経済の矛盾を理解していない共産党政府が、引き続き自分たちで管理できるとばかりに手荒な対症療法をすれば、市場は過剰反応し事態をこじらせかねない。かといって、自信が揺らいだ政府が操縦桿から手を放して市場経済に任せれば、為替や金利が乱高下し、ますますコントロール不能になってしまう。賃金も、為替も、金利も、株もすべて管理してきた政府が今さら市場経済を学ぶ時間はない。躊躇すれば世界が巻き添えになる何とも悩ましい中国経済(そしてやがて共産党政府)の先行きを、世界は固唾を呑んで見守っている。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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