宗教紛争の構図も抱えるシリア内戦

泥沼の内戦が続くシリア。9月末にはイスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」の掃討を名目にロシアが空爆を開始した。ロシア政府が戦果を繰り返し強調する一方で、「ロシアの空爆の90%は(アメリカが支持している)穏健派の反政府勢力を標的にしていて、民間人の死者も出ている」とアメリカ政府は強く非難している。アフガニスタンで「国境なき医師団」の病院を誤爆して死傷者を出したアメリカが言えた義理ではない。アメリカと有志連合は1年前からシリア領内のIS拠点を空爆してきたが、相手は夜陰や民間人に紛れて活動するから目標の選定も容易ではない。インフラを破壊しただけに終わったり、民間人が犠牲になることも多い。

それに比べればロシアの空爆ははるかに精度が高い。ロシア、シリア、イラン、イラクの4カ国で情報センターを創設してISに関する情報は逐一共有する仕組みになっている。ISがどこでどんな活動をしているのか、現場から送られてくる地上レベルの精密な情報に基づいて空爆目標を定めているのだ。ロシアのテレビ(RTR)では作戦本部を公開し、逐次戦況を説明している。相当な自信があるのだろう。

ISに狙いを定めつつ、アサド政権に敵対する反政府勢力もついでに叩くというのがロシアの狙いだろう。ロシアの軍事介入でシリア情勢はどう動くのか。それを考える前提としてシリアの現状を簡単に整理する。そもそもの発端はチュニジアから始まった「アラブの春」の流れを受けて2011年に起きた反政府運動であり、アサド政権派の国軍と反体制派による武力衝突だった。アサド大統領の宗教はイスラム教シーア派の分派とされるアラウィー派で、政権の主要ポストもアラウィー派で占められている。これに対してシリア国民の大多数はスンニ派であり、内戦は宗教紛争の構図も抱えている。

反体制派は多種多様の組織があって決して一枚岩ではない。当初に結成された武装組織の「自由シリア軍」にしても、欧米が支援してきた「国民評議会」「国民連合」などの中核組織にしても、内部分裂を起こして統制が取れていない。ポストアサドの受け皿として政権を担えるとは到底思えず、もしアサド政権が倒れたらイラクの二の舞いだろう。

混乱に乗じてアルカイダやISといったイスラム過激派、クルド人勢力などが参戦して、反体制派と結びついたり、逆に衝突して、今では反政府勢力同士が各地で戦闘を繰り広げている有り様。アサド政権打倒やIS掃討を目的とした諸外国の空爆も加わって、シリアの国土荒廃はすさまじい。