アメリカの中東政策の綻びが生み出したもの

今日のシリア情勢は結局のところ、アメリカの中東政策の不始末だ。アメリカ主導の中東民主化で何が起きたか。ムバラク亡き後のエジプトでは民主的選挙でイスラム原理主義組織のムスリム同胞団が政権を握ったが、これを嫌ったアメリカ(とイスラエル)が軍事クーデターを仕掛けて政権を転覆させた。カダフィー亡き後のリビアでも“春”は一瞬で終わり、後には混乱だけが残った。アラブ世界から独裁者を取り除いても西側世界のように民主的には治まらない、というのがこの15年のアメリカの苦い経験だったはず。にもかかわらず、シリアにおいてもアサド政権を敵視して、軍事顧問団を送り込んだり、武器や資金を供与して反体制派を支援してきた。

なぜアメリカが同じ間違いを繰り返すのかといえば、彼らの中東政策は内政上ユダヤ勢力の支持を取り付けるためにイスラエルを守ること、そして石油権益を確保することしか眼中にないからだ。つまりイスラエルを脅かすアラブの独裁者はすべて“悪”であり、サウジアラビアは王政独裁ながら石油権益で結びついているから“善”なのだ。

さらに言えばアメリカの中東政策には、イスラム教スンニ派とシーア派の葛藤という視点が欠如している。スンニ派の独裁者サダム・フセインをイラクから取り除いて民主的に事を運べば、多数派のシーア派政府ができるのは当然。だがシーア派には統治能力はなく、少数派のスンニ派は追い込まれてテロリスト化する。それがイラクの現状だ。イラクがシーア派政権になって隣国のシーア派大国イランと接近していることに、強い嫌悪感と警戒感を抱いているのがスンニ派大国のサウジ。サウジはスンニ派の勢力拡大を狙ってイラクやシリア領内のスンニ派系過激派組織を援助して、それがISの元祖の一つにもなった。アルカイダやIS、ナイジェリアの「ボコ・ハラム」などのテロ組織は、アメリカの中東政策の綻びから生まれたモンスターなのだ。