ロシアがアサド政権を応援する最大の理由

シリアのアサド政権はシーア派の一派とされ、イランとイラクのシーア派政権とは仲がいい。ロシアとシリアは米ソ冷戦時代からの長い付き合いで、シリアのエリートは皆ロシアで教育や軍事教練を受けている。ロシア人と結婚したシリア人も多く、今や子供や孫の世代になっている。そうしたロシア系シリア人やシリア系ロシア人が30万~60万人いるともいわれている。ロシアがアサド政権を応援する最大の理由はこの歴史的な血のつながり。シリアをないがしろにしたらロシアの内政が持たないという、ちょうどアメリカとイスラエルのような関係なのだ。また、シリアの地中海沿岸タルトゥースにはロシアの海軍基地があり、それを死守するという軍事的な必然性もある。

ロシアが空爆作戦の拠点としているシリア北西部ラタキア近郊のヘメイミーム空軍基地。(写真=AFLO)

では、なぜこのタイミングでロシアは空爆に踏み切ったのか。無論、アサド大統領の要請もあったが、何よりヨーロッパの空気の変化をプーチン大統領が敏感に嗅ぎ取ったからだと思われる。この数カ月、ヨーロッパの国々は難民問題で頭が一杯になっている。一つ間違えればEU崩壊につながりかねないほど事態は深刻だ。10月は1カ月で20万人以上の難民がヨーロッパに押し寄せたが、そこには内戦やISの暴力から逃がれてきたシリア難民も大勢含まれている。内戦で減少したシリアの人口は約1800万人(2014年)。約400万人がシリアを逃げ出したといわれ、その1割、約40万人がすでにヨーロッパに到達、今年中には70万人に達するといわれている。残りの9割はトルコ、レバノン、ヨルダンなどの周辺国に留まっている。さらには自分たちが住んでいた村や家々を破壊されて、十分な水や食料もないまま放浪を余儀なくされている国内難民が700万人以上いるとされる。つまり、今後、シリア発だけでも1000万人の難民がヨーロッパに押し寄せてくる可能性があり、シリア内戦に歯止めをかけなければ難民問題は解決しない、という危機感がヨーロッパでは共有されている。