都市ごとに特色を持つモザイク型国家
今秋、私が主宰する経営者の勉強会「向研会」の視察旅行でイタリアを訪れた。イタリアはEUにおいてGDP(名目GDP約2兆1000億ドル、以下2014年データ)、人口(約6100万人)ともに第4位の大国だが、1人当たりGDP(約3万5000ドル)で見るとEUの中位レベルにとどまる。イタリアの政府債務残高の対GDP比は約132%。先進国では日本(約246%)に次いで2番目に高い。長らく低成長に喘ぎ、12年以降はマイナス成長が続いている。
そのイタリアから何を学ぶのかといえば、それぞれの地域の産業政策だ。政府は大きな問題を抱えているが、イタリアの都市の大半は自前の産業を持って世界化し、経済的に自立している。同じく巨大な国家債務を抱えている日本の場合、国が破綻すれば地方も即破綻する運命にあるが、イタリアは国が破綻しても、グローバル産業を持っている地方都市は生き残れる。そのモデルを研究することは「地方創生」を掲げる今の日本にとって大いに意味がある。
都市国家を統合してできたイタリアは、都市ごとに特色を持って発展をしてきたモザイク型国家だ。それがイタリアの特色であり、強みの源泉になっている。戦前は統一国家として近代化を進めるために、戦後は東西冷戦の構図の中で共産勢力に対する東の砦として、中央集権体制を維持、強化してきた。その中で重厚長大産業を中心に奇跡的な戦後復興も果たした。だが、冷戦が安定化して旧ソ連の脅威が低下する一方、労働争議が頻発してイタリアの重厚長大産業の国際競争力は低下。1970年代から地方分権化を進めて、主に産業政策に関する権限を中央政府から州へと移譲していく。
ちなみにイタリアの地方自治は州、県、市町村に当たる基礎自治体のコムーネ(comune)の3層から成る。99年には州知事に直接選挙制が導入され、すべての州で州憲法の制定が認められた。01年10月の憲法改正では、県とコムーネは「固有の憲章、権限、職務を有する地方自治体」、州は「立法権と組織自治権、予算に関する一定の自治権を持つ」と規定されている。
70年代以降の地方分権化によって州や自治体、業界団体が独自の産業政策を実施するようになり、企業との共同研究プロジェクトなども進んだ。結果、80年代にはイタリア企業は躍進、中小企業や職人的企業が集まった産業集積地を中心に発展した。
アジアの低価格製品との競争が激化してきた00年以降は、州、自治体、業界団体が産地企業の国際化支援プログラムを推進。高級ブランド化路線、規模の集約化、海外市場の開拓や生産拠点の海外シフトなど、産地ごとに独自の生き残り戦略を展開して輸出を維持している。