2015年11月2日(月)

東証一部上場へ、郵政3社の未来絵図

大前研一の日本のカラクリ

PRESIDENT 2015年11月16日号

ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成 時事通信フォト=写真
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郵政上場には「成長シナリオ」が見えない

日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の郵政3社の東証一部上場が間近に迫った。11月4日に3社は同時上場される予定で、小泉純一郎元首相が掲げた「郵政民営化」は10年の歳月を経て、大きな節目を迎えることになる。

証券会社主催の郵政3社上場に関する説明会に参加する個人投資家(名古屋市、9月18日撮影)。(写真=時事通信フォト)

とはいえ上場となれば市場原理に基づいた競争にさらされるわけで、乳母日傘で育った3社にそれにふさわしい実力が備わっているかといえば、答えはNOである。

まず日本郵政。この会社は日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の全株式を保有する持ち株会社であり、株式は政府が100%保有している。一方、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は日本郵政の完全子会社で、株式は日本郵政が保有している。つまり今回の3社上場は親子上場であり、利益相反につながる恐れがある。郵便事業が赤字でも郵便会社が黒字なのは郵貯と簡保から窓口使用料を1兆円も取っているからである。郵貯と簡保が上場すれば、コンビニや銀行の窓販などを含めて最適な販売窓口を模索しなくてはならない。その場合、郵便会社への窓口使用料を今のままにしておくことはできないわけで、それが「利益相反」につながる、という理由だ。

日本郵政グループの上場スキームでは、政府は最終的に3分の1超を残して日本郵政の株式を売却、日本郵政はゆうちょ銀行とかんぽ生命の50%強の株式売却を目指すとしている。さらに郵政民営化法で、将来的にゆうちょ銀行とかんぽ生命がグループから外れることが決まっている。となると日本郵政に残るのは日本郵便が手掛ける赤字の郵便事業のみ。しかし郵便事業のシェアはヤマト運輸と佐川急便に大きく引き離されている。そのうえ、全国均一のサービスを提供するユニバーサル・サービスの十字架を背負っているために、収益の改善はままならない。まともに上場しても値がつかないから、日本郵便だけは100%子会社のままなのだ。

約6000億円もかけてオーストラリアの物流会社を買収するなど日本郵政の西室泰三社長はグローバル化をアピールするが、FedExやUPSが猛威を振るう国際物流の世界で勝負するには経験もノウハウもまだまだ足りない。

一方、親会社に比べると子会社2社の業績は一見堅調に見えるが、時系列で見るとジリ貧となっている。2009年には20兆円もあったグループの経常利益は15年には15兆円を切るところまできている。郵政上場に投資家がそっぽを向いているのはNTT、JR、JTなどの公社に見られた「成長シナリオ」がないからだ。とはいっても、現在の市場環境下では半端じゃない収益を稼ぎ出している。かんぽ生命の15年3月期の保険料収入は第一生命や日本生命を上回って生保業界トップ。全国2万5000以上ある郵便局の巨大な販売チャネルが強みとされている。だが、上場して民間の金融機関になってもその強みが生きるかどうかは不明だ。「国営の簡保だから安心」とほとんどお任せで加入してもらえたものが、これからは保険に詳しい消費者の厳しい目にもさらされる。

窓口にパンフレットを積んでおけば、勝手に売れるほど保険のセールスは甘くない。

ユニバーサル・サービスで全国津々浦々に販売窓口があるから有利、というのは美しき誤解だ。さりながら、政府は日本郵政の株式を保有し、日本郵政がかんぽ生命の株式を保有する親子関係は当面続くから、半官半民、政府のヒモ付き=安心というイメージは引き継がれる。逆に言えば、民間と対等な条件で競争するという民営化の理想には程遠いということだ。

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