2015年9月25日(金)

なぜ訪日中国人は日本が大好きになるか

大前研一の日本のカラクリ

PRESIDENT 2015年10月5日号

ビジネス・ブレークスルー大学学長 大前研一/小川 剛=構成 AFLO=写真
1
nextpage

訪日客数は年3000万人まで増え続ける

2014年に日本を訪れた外国人観光客の数(訪日インバウンド)が初めて1300万人を突破して過去最高を記録した。前年から300万人以上増加したことになる。円安、国際線やLCC(格安航空会社)の増便、訪日ビザの緩和(13年にタイとマレーシアのビザが免除になり、14年後半からインドネシア、フィリピン、ベトナムのビザ発給要件が緩和された)、消費税の免税拡大など、訪日インバウンド急増の背景には複合的な理由があるが、この傾向は当分続くだろう。政府、観光庁は東京オリンピック・パラリンピックが開催される20年までに2000万人を目標に掲げている。年間300万人ペースで増え続ければ、数年後には2000万人を突破して3000万人ぐらいまでは増え続けて、そこから安定期に入ると私は見ている。

引き続き、訪日インバウンドの増加が見込める最大の理由は、中国人観光客の増加余力がまだまだ大きいことだ。14年の訪日外国人の国・地域別客数を見てみると第1位は台湾で約283万人。2位が韓国で約276万人。3位が中国で約241万人。4位以降は100万人以下で香港、アメリカ、タイ、オーストラリア、マレーシア、シンガポール、イギリスと続く。

台湾の人口は約2300万人。訪日台湾人が280万人ということは、年間で国民の8人に1人は日本を訪れている計算になる。それほど台湾人は日本が大好きだしリピーターも多い。常に中国の先行指標といわれるのが香港、台湾。中国人の生活レベルが上がってくると香港人や台湾人が好むものを好きになる傾向がある。特にライフスタイルについては香港人、“日本”に関しては台湾人が中国人の先行指標になっている。

たとえば中国人はもともと生魚を食べないし、冷たいものはおなかを壊すということでビールは常温で飲むのが当たり前だった。一方、台湾では日本統治時代の影響もあって、生魚を食べるし、ビールも日本のように冷やして飲む。温泉も大好きで台北郊外の北投温泉に加賀屋を招致したくらいだ。それが大陸に伝播して、近ごろは生魚を食べたり、冷たいビールを楽しむ中国人が増えた。日本で温泉地に向かう人も増えている。

台湾人の日本志向を中国人が追いかける傾向からすれば、1年間に国民の8分の1が日本を訪れる台湾の訪日ペースに中国の新興富裕層も近づいてくるだろう。中国13億人の10分の1とは言わないが、100分の1としても1300万人。つまり現状の5倍以上の中国人が日本にやってくるようになってもまったく不思議ではない。インバウンド2000万人時代には中国人が50%ぐらいのウエートを占めるのではないか。日中関係が政治的にこじれない限りは、政府の意向を無視して日本を目指す中国人観光客は今後さらに増えると思う。

今の中国はちょうど日本が高度成長期に第一次海外旅行ブームを迎えたような状況にあって、中国人の海外旅行に対する関心は異常に高い。これは私見だが、中国人の海外旅行ブームの背景には、自国の将来に対する不信、諦念があるように感じる。腐敗した政治家と役人がのさばっている限り、中国社会はこれ以上素晴らしいものにはならない。だったら近場の日本に行って、安心安全な社会の素晴らしさや自然の豊かさに触れたい――。言葉にせずとも、そういうマインドが日本志向につながっているようだ。

PickUp

「大前研一の日本のカラクリ」 バックナンバー一覧 »
関連記事一覧 »
キーワード