実際、中国のネット掲示板を覗いてみると、日本にやってきて好印象を抱いた中国人の書き込みで溢れている。

中国では目の吊り上がった日本兵が敵役の抗日ドラマが毎晩のように流されているから、それを見て育った中国人はまず日本にやってきただけで「日本人が笑っている」とビックリする。そこから始まって「タクシーに忘れ物をしたらホテルに届けてくれた」とか「お釣りを間違ったと店の人が追いかけてきてくれた」といった類いの親切話が山ほど書き込まれているのだ。

それに対して「おまえは日本で洗脳されておかしくなった」などと反論が上がる一方で、「私も日本に行ったけど、この人の言う通りだ」と擁護派も次々登場して掲示板はヒートアップ。そのうち誰かが「民度」と言い出す。「日本人と中国人の最大の違いは民度。あんな教育ができた国は素晴らしい」とか「中国人が同じような民度を獲得するには50年かかる。よその国で中国人の団体を見ると本当に恥ずかしい」という意見が事例とともに書き込まれる。

政府当局がいくら情報統制しても、ウェイボー(微博 中国最大のSNS)のようなネットワークに書き込まれる旅行話や個人的な体験談までは規制できない。それを読んだ中国人は「私も日本に行ってみようかな」と思うし、実際に一度訪れたら日本を大好きになる中国人が圧倒的に多い。年間240万人ペースで日本贔屓の中国人が増えているわけで、外交よりも観光ベースの日中関係改善のほうが先行している。中国政府もそれを無視できなくなっているのだ。

訪日観光客用の宿泊施設が全然足りない

世界一の観光大国フランスの観光客数は年間約8300万人。イタリアは約4770万人。それには及ばないが、年間3000万人のインバウンドともなれば、インバウンド消費が日本経済に与える影響は大きい。

問題は受け入れ体制だ。日本はアウトバウンド(海外旅行者)のほうが多い時代が長かったから、国内の観光業はインバウンドを意識した体制づくりをしてこなかった。インバウンド急増に伴って都内や関西圏のホテルの稼働率は軒並み80%以上に達し、寂れた観光地の潰れかけた旅館まで中国人のツアー客が押しかけている。インバウンド効果で大復活を遂げた観光地もあるくらいだ。日本の宿泊施設のキャパシティはせいぜい2000万人程度。そこから先は完全にキャパをオーバーする。インバウンド3000万人に向けて、まったく新しい投資が必要になるだろう。また使ってない部屋や空き家を利用するなど、一般の人にもメリット(収入)が享受できるような工夫も必要だ。ディズニーランドにしてもUSJにしても、宿泊施設が全然足りない。銀座辺りも中国人観光客行きつけのラオックスやドン・キホーテがある4丁目から8丁目にかけて、観光バスがズラッと並んで一車線を完全に塞いでいる。観光客で溢れ返って銀座の街自体が機能しなくなっているのだ。

2020年東京オリンピックという一過性のイベントだけではなく、インバウンド3000万人という恒常的な数字を受け止める(ホテル、トイレ、駐車場、食堂、ガイドなどの)体制づくり、インフラ整備が求められる。