禍根が残らない選択と集中は、どうやるか
経営資源を効果的に振り向けるという意味では「選択と集中」は重要な企業戦略のテーマである。しかし、一方で「選択と集中」から漏れた事業や社員をどう処遇していくかという重い課題がついて回る。「選択と集中」を行うための準備や手法というのは、すぐれてEQ(心の知能指数)の問題なのだ。
「あなた方には3つの選択肢がある。1つ目は3年の猶予期間を与えるので、小さくてもいいから収益を挙げて会社に貢献できるようにターンアラウンド(再生)しなさい。2つ目は自立を諦めて合併する。社員もハッピーになれるパートナーを見つけてきて、うまくいくことを示しなさい。3つ目は売却。最良の売却先を選んで売却の準備をしなさい」
このような選択肢を与えて、結果で納得させるような「選択と集中」であれば、禍根もあまり残らないだろう。ただ利益を積み上げる数字合わせの努力ではなく、経営努力をさせる時間的猶予が必要だ。
「選択と集中」の本家は、米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ氏である。彼は年間15%の社員のクビを切り続けた。そうすることで自分も緊張するし、会社も緊張して締まる。だから時間が空いたらクビにすることだけを考えていたという。
「そんなに人を切って恨みを買わないのか」と直接聞いたら、彼は嬉々として答えた。
「恨まれるどころか、感謝されているよ。俺がCEOになってから株価は18倍になった。エブリワンハッピーだ」
GEの従業員の企業年金である401kは過半数がGE株だ。つまり、「選択と集中」で株価が上がれば、切られた従業員もそれを持って退社するのでハッピーなのだ。GEをクビになっても徹底的に仕込まれた経営スキルで引く手あまた。大枚を持って辞めるからエンジェル(創業間もない企業に投資する個人)としても尊敬される。GE出身者がリタイアして田舎に行けば、商工会議所会頭の椅子ぐらいは簡単に回ってくる。
「GEを辞めたヤツは皆ヒーローになる。誰も俺を恨んでないね」
これがGE流の「選択と集中」の要諦なのだ。しかし、「これからは選択と集中の時代」と日経新聞に煽られて飛びついた日本企業の多くはそんなことは知らない。準備不足のまま安易に「選択と集中」に突っ走り、いまだに迷いの森を彷徨っている。