高速道路網の整備で、商圏が飛躍的に拡大した

ターゲットとする商圏も見直した。かつての地域球団は、例えば福岡市に本拠を置くのであれば、福岡市とその周辺を商圏とするほかなかった。ナイター観戦を終えた観客が公共交通機関で帰宅するかぎり、それ以上に商圏を広げることは難しい。

しかし、この頃には全国的に高速道路網の整備が進んだこともあり、福岡のような地方中核都市の商圏は飛躍的に拡大していた。ホークスは、九州一円を対象とした野球観戦バスツアーなどの企画に乗り出す。加えて二軍の試合を九州各地で行うなど、商圏の掘り起こしも怠らなかった。

瀬戸山氏は、同様の複数の収益の柱をかけ合わせる取り組みを、千葉ロッテマリーンズやオリックス・バファローズでも展開していく。

とはいえ、条件が違えば、具体的に何を行うかは異なる。マーケティングの課題は千差万別だ。乗り込んだ先がかつての宿敵の本拠地だったホークスに対し、千葉に移転したマリーンズの課題は、プロ野球観戦に慣れ親しんでいない地域で顧客を開拓していくことだった。

一方でマリーンズには、地域ならではのリソースもあった。千葉マリンスタジアム(QVCマリンフィールド)は周囲が県の公園で、オープンスペースがふんだんにあった。そこで、県の許可を受けてステージを設けたり、屋台やビアガーデンを展開したりして、試合の前後も楽しめるようにした。プロ野球の楽しみを、試合観戦に限定する必要はない。1日をテーマパークのように使ってもらおうとした取り組みは、球場を訪れる観客の層や滞在時間を拡大した。

その商圏は浦安市から東側である。このスタジアムの立地だと、東京都の顧客を吸引する力よりも、ずっと遠距離にある鴨川や館山の顧客を吸引する力のほうが高いのである。

条件の違いについていえば、千葉マリンスタジアムは、球団や親会社の所有物ではなく、千葉市のものだった。瀬戸山氏が赴任した当初、球団がいかに努力したところで、球場内の飲食サービスや広告看板の活用で収入源を拡大していくことはできなかった。それらは市が出資する球場管理会社の事業だったのである。

これでは、ビジネスとして成り立つはずのものも成り立たない。瀬戸山氏たちは、ロッテ本社の力も借りながら、県や市に条件変更や規制緩和を働きかけていく。2年後、千葉市は球場の運営を民間に委託する指定管理者制度を導入した。この指定を受けたことで、収支がまったく合っていなかったマリーンズは、売り上げ拡大の道筋を確保する。

オリックス・バファローズの本拠地・京セラドーム大阪は、また条件が異なる。大阪の中心にあるこの球場は、一歩外に出れば、飲食店はいくらでもある。一方でこのドーム球場は、オリックス・グループが所有しており、ドームでのコンサートやイベントと野球の興行とを足し合わせて収支を整えるなど、より大きな土台の上でのビジネス展開が可能となる。