いま、私に一軒の飲食店を任せてもらえば、何人かの人を雇って見事な店をつくってみせます。それは、ラーメン屋でも、おでん屋でも同じ。売り上げを増やし、コストを抑えるための創意工夫は、どの商売にも通じるからです。

実は私の弟が、最近になって京都市内で寿司店を開店しました。とはいっても本人は寿司を握れませんから、職人さん数人を雇い、彼が店をマネジメントしているわけです。先日、仕事の合間に時間が取れたので足を運んでみました。

カウンター席に座り、日本酒を口にしながら、好みのネタを握ってもらい、職人の方たちと話をしました。話題は自然と商売に向かいます。私は「魚はどこで仕入れているの?」と聞いてみました。すると、ベテランらしい一人が、朝早くから下京区にある京都中央卸売市場まで買い出しにいくのだと答えてくれました。

たぶん彼は、仕入れに際して、顔なじみになった仲買業者のところへいき、店先に並べられた魚を吟味し、その日の寿司のメニューを思い浮かべながら購入するはずです。当然、鮮度がよく、価格の安い物を厳選していることはいうまでもありません。それによって、その日の来客の満足度が決まるからです。

売値から逆算し工夫をこらす

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まず、売値ありきで考えよ(写真=PIXTA)

ところで、彼が雇われる立場ではなく、オーナーだったらどうか。その日、マグロが安いとなれば、トロや赤身を多めに仕入れ、ランチメニューにマグロ丼定食を出すといった発想をすると思います。ビジネスマンを喜ばせるなら、ボリュームがあって、値段は600円程度でしょう。これでは利益率10%が無理というのなら、マグロのほかにアジをさりげなく加えます。

それから、しっかりと原価計算をします。一人分につきマグロとアジで200円、寿司飯が100円、赤だしのミソと具で50円、そのほかにガス・水道代を按分するといった具合です。それでどれだけの粗利が取れるか、商売の醍醐味はそこにあるわけです。

そんな話をしながら「経営者意識を持って、いい店にしてください」とお願いしたわけです。そして口での説教だけではいけませんから「よし、今度皆さんを京都の一流の料理屋さんにつれて行ってあげましょう」と約束しました。

当日、酒を酌み交わしながら、寿司店を繁盛させるための働き方や私の人生観、経営論を諄々と説かせてもらいました。お酒で気持ちもほぐれ、高価な器に盛り付けられた料理を堪能して、皆さん満足そうでした。感謝の心が、がんばりにつながり、弟の店も発展していくに違いありません。

稲盛和夫
1932年、鹿児島市に生まれる。55年京都の碍子メーカーである松風工業に就職。59年4月、知人より出資を得て、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立し、現在名誉会長。第二電電企画、KDDIの設立、JALの再建にも携わる。