日本企業で欠かせないビジネス慣習のひとつが朝礼だ。昭和の昔、サラリーマンの仕事は朝礼、ラジオ体操、上司の精神訓話から始まった。月日が流れ、体操と精神訓話は姿を消しつつあるが、朝礼には時代を超える効用があるのだろう。いまもビジネスマンたちは朝から元気に声を出している。

「朝礼は1年365日、年中無休でやっています。目的は一つ。当社が大切にしている『サービスが先、利益が後』という思いを共有することです」

そう語るのは埼玉主管支店の支店長、大友丈晴だ。ヤマト運輸は全国に70の主管支店を配しており、約4000のセンターをサポートする中核店舗となっている。

大友は「朝礼は研修の代わりでもあります」と続けた。

「宅急便を開発した故・小倉昌男は当社のセールスドライバーに『寿司屋の職人たれ』と命じました。カウンターにいる寿司職人のようにお客様の様子や好みを判断して、自分の頭で考えたサービスをしろという意味です。マニュアルに頼らずにお客様が望むことをやれという教えなんです。当社の社員は会社の方向性を理解したら、あとは何事も自分で判断しなくてはならない。私は朝礼の場を借りて、社員に自分の頭で考える重要性を伝えています。社訓と企業理念の唱和を朝礼メニューにしているのも、顧客サービスの重要性がそこに表れているからです」


(右)埼玉主管支店の大友丈晴支店長。86人が働いている。(左)直接お客様に接しない社員もあいさつの練習。(下)3つの社訓を唱えた後、担当者の話を聞く。この日は1963年の東大卒業式で総長が話した「小さな親切」についてのスピーチ。

埼玉主管支店で行っている朝礼の内容は次の通りである。

・ヤマト体操
ラジオ体操の簡略版のようなもので、まず体をほぐす。作業事故の防止という意味も含んでいる。
・社訓の唱和
・経営理念の唱和
社員たちは社訓と経営理念を暗記していた。毎朝唱和しているうちに自然と覚えたのだろう。
・連絡事項の伝達
・あいさつの練習

「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」といったあいさつや接客用語を言いながら頭を下げる。デパート、専門店など販売職の朝礼では欠かせない要素だが、物流業で接客用語を練習しているところはまず見当たらない。接客用語の練習は同社が顧客サービスを真剣に考えている証拠と言える。

大友は言う。「朝礼は日本全国、どこでも行っています。本社でも、海外の店でもヤマト体操をして、社訓と経営理念を唱和している。毎朝みんなが同じ時間に同じ思いを共有していると考えると、心強くなります」

ヤマト運輸の従業員は約14万人。それぞれが客のためにどんなサービスができるかを考えながら朝礼に出席している。ヤマトが業績好調なのは毎朝の朝礼があるからだと言っていい。

(文中敬称略)

(尾関裕士=撮影)
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