稲盛和夫がいまだかつて自身の金銭感覚をここまで披露したことがあっただろうか。なぜこれほど「ケチ」なのか。一般人の「ケチ」と何が違うのか。ロングインタビューで明らかになった!
稲盛和夫氏●1932年、鹿児島市に生まれる。55年京都の碍子メーカーである松風工業に就職。59年4月、知人より出資を得て、京都セラミック株式会社(現京セラ)を設立し、現在名誉会長。第二電電企画、KDDIの設立、JALの再建にも携わる。

2014年の春闘では、トヨタ自動車やローソン、日立製作所などでベアが相次いだ。トップ企業の経営者レベルでは、デフレ脱却と景気回復の実感があるようだ。だが、はたしてこのデフレ脱却の動きは本物なのか。そしてこの流れは家計にまで波及するのか。稲盛和夫氏は、政治主導による他動的な側面を指摘する。

「アベノミクスの効果で景気が上向いているのは確かです。けれども同時に、3月のベアについては、政府・自民党のほうからいろいろと働きかけていました。いわば、政治サイドからの要請によるもので、そこが本来の力強い景気回復とは違うところです」

実際、景気とは、よくなったり、悪くなったりと循環していくものだ。だからこそ、経営者がリーダーシップを発揮して、高い目標を立て、強烈な意志で業績を改善、従業員の給与も上げないといけない。それは、国家においての成長戦略、家計においてもたゆまない努力の必要性を強調するものであろう。

企業や家計を取り巻く環境はまだまだ厳しい。円安によるエネルギーや輸入原材料の高騰も続いている。この4月からは消費税率も8%に上がった。地方や中小企業の景況感は依然としてよくない。多くの会社は定期昇給がやっとで、ベアまではとても無理だろう。収入を上回る支出の増加は確実に家計を苦しめる。

稲盛氏は「そこで大切なのが、リーダーが組織をどうしたいのかという思いです。どんな規模の企業であっても、もっと立派な会社にしたい。あるいは、オンリーワンの技術開発に成功して、売上高も利益も増やしたいと考えます。そうした“思い”が一番大切なのです。人類の歴史を振り返っても、近代文明における進歩・発展は、人がふっと頭に浮かんだ思いからはじまっている。例えば『もっと便利なものを発明したい』とか『誰よりも裕福になりたい』といった思いを実現するために努力したからにほかなりません」と話す。

かつて稲盛氏は、パナソニック創業者・松下幸之助氏の「ダム式経営」の講演を直接聞いたことがあるという。そのとき松下氏は「好景気だからといって、流れのままに経営するのではなく、景気が悪くなるときに備えて資金を蓄える。ダムが水を貯め流量を安定させるような経営をすべきだ」と語った。聴衆の一人が「ダム式経営の大切さはわかるが、そのやり方がわからないから困っている」として、そのやり方を尋ねると、幸之助氏は「まず、ダムをつくろうと思わんとあきまへんなあ」と答えたのである。具体的なノウハウを期待していた聴衆の多くは落胆し、失笑したが、稲盛氏はそのとき、一途に思い続けることの重要性を理解し、強い衝撃を受けたのだった。