盛和塾の経営問答で鍛えられる

まして中小企業なら、いつどんなときも、決して恵まれた経営環境ということはありえない。稲盛氏は、全国の若手経営者たちの強い要望を受けて、1983年から「盛和塾」を主宰してきた。現在、塾生は国内外で9000人を超える。勉強会では経営のベースとなる経営哲学について講義をするとともに、参加者の経営上の悩みに答える「経営問答」などが行われる。

最初は、多忙な稲盛氏のスケジュールの合間を見つけて、少人数で酒を飲みながら話していたという。そこで語られるのは、資金繰りの問題や社員と社長の給与のバランスなどの経営上のお金にまつわる悩みが圧倒的だった。

とはいえ、中小企業といえども、一城の主である経営者には、素晴らしい会社にして社員に幸せになってもらいたいというトップとしての信念がなければならない。いま稲盛氏は、そうした塾生に対して、ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長を例に次のように語る。

「彼は、売上高1兆円をめざして、積極的に海外戦略を進めました。いろいろな問題はあったでしょうが、起業家精神を持ち続けて、具体的な方法論を考えることでその目標をクリア。いうまでもなく柳井さんが、トップとして信念を持ち続けた結果といっていいでしょう」

ただ、そうはいっても自分一人だけでは成果は期待できない。自分だけではなく、組織・チームのメンバー一人ひとりとも信念を共有し、一緒になって考え、行動したとき、知恵も湧き、集団は目的に向かって動き出す。